毎年1月から3月ごろは、ファンドアナリストが最も忙しくなる時期である。というのも、この時期は投資信託の評価会社などが公表する「ファンドアワード」の選考作業が佳境を迎えるためだ。筆者も、投信評価会社時代は例年、11月ごろから何度もデータを精査し、翌1月下旬に優秀ファンドを最終確定させるまで慌ただしい日々を過ごしていた。
評価の基準としてよく用いられるシャープレシオとは?
さて、その「ファンドアワード」。日本では、毎年2月から4月にかけて前年末時点のデータを基に、モーニングスター、リッパー、格付投資情報センター(R&I)の投信評価会社のほか、筆者の所属する楽天証券も優良な成績を収めた投資信託をファンドアワードの形で表彰している。表彰部門や評価期間などの違いはあるにせよ、運用効率がよく、成績が安定した投資信託を表彰するという基本的なコンセプトは各社で共通している。
したがって、各社のアワードを「総なめ」にするファンドも毎年数本誕生する。1社だけでなく、複数社でアワードを受賞したファンドをチェックすることは、ファンド選びのヒントにもなる。
先述した「運用効率のよさ」や「安定した成績」とは、つまり「リスク控除後」のリターンの高さである。ファンドアワードに限らず、投信評価の世界では一般的に、そのファンドが取ったリスクの大小を考慮に入れて評価を行う。
リスク控除後のリターンを表す代表的な指標には「シャープレシオ」がある。シャープレシオとは、負ったリスクに対してどれだけリターンをあげることができたかを表す指標で、以下の数式で求められる。
[リターン(平均収益率)- 安全資産のリターン] / リスク(標準偏差)
上記の数式によって算出された数値が大きくなるほど、「低いリスクで高いリターンが得られる運用効率がよい投資信託」であることを意味する。一般的に、この数字が1を超えていると優良な投資信託であるとされる。
投信評価会社各社のファンドアワードでは、必ずしも全社でシャープレシオが採用されているわけではないものの、何らかのリスク調整後リターンに各社独自の改良を加えて定量評価を行い、優秀ファンドを選出している。この「独自の改良」には、リターンが同じカテゴリーの平均を下回った場合にペナルティを課すような設計にしていたり、ローリングリターン(ある一定の期間のリターンについて、起点と終点をずらして計算したもの)も考慮に入れたりといった内容が含まれる。
なお、単純なリターンではなく「リスク控除後」のリターンを重視するのは、運用成績に含まれる「偶然」や「まぐれ」の要素を極力排除するためである。リターンのみで単純比較すると、よかった成績が、例えば上昇相場で「げたを履かせてもらっていた」など環境要因の影響によるものかどうかの見極めができない。このため、リターンの根拠となるリスクの大きさを考慮に入れることで、身の丈に合った運用ができているかの判断が可能になるというわけだ。