黒字化するころには70歳過ぎに

当社では、初回の面談でその方の資産運用の目標(ゴール)を明確化するようにしています。具体的な目標が最初から決まっている方はほとんどおらず、ヒアリングを通してその方の課題や理想とする暮らしを引き出し、目標を「見える化」して提示します。

初回の面談を通して、彼女のゴールは「定年の65歳まで働いて、それ以降はお金の心配なく暮らすこと」だと分かりました。そこで、まずは保有物件とローンの状況を詳しく聞いた上で、老後までの長期キャッシュフローを計算することにしました。当社の不動産鑑定士や提携している不動産業者と連携して、詳細な収支をシミュレーションしました。

シミュレーションの結果には、正直驚きました。家賃収入からローン返済や固定資産税を引くと、どの物件も収入がほとんど手元に残らない状態が25年前後続くことが分かったのです。黒字化するころには、彼女は70歳を超えています。

65歳以降、退職してもお金の心配なく暮らすのが彼女のゴールなのに、今のままでは定年を過ぎてもローン返済に追われることになります。しかも、不動産という資産があっても、希望する時期、希望通りの価格ですぐに換金できるわけではありません。何より、これから20年近くある定年までの期間は、老後資産を形成する大切な時期。ローン返済に追われて不動産以外の資産を残せないのは危険だと言わざるを得ません。

加えて、毎月の修繕積立金が相場よりかなり安く見積もられていることが気になりました。通常、マンションの修繕積立金は築年数とともに段階的に値上がりし、さらに築10、15年といった節目の年に、大規模修繕に向けてまとまった額が追加で設定されることもあります。しかし、不動産投資の現場では、投資家に利回りを高く見せるため、そうした慣例を度外視した想定で収支計画を立てている例が少なくありません。

内田さんの場合も、現状想定されている修繕積立金は明らかに安過ぎて、将来の値上げや、大規模修繕時の追加支払いが避けられそうにありません。そうなればわずかな黒字となっている毎月のキャッシュフローも、一気に赤字に転換するおそれがありました。

この結果に内田さんはショックを受けていましたが、「早い段階で課題に気付けたのですから前向きに対策を考えましょう」というこちらの提案に納得し、気持ちを切り替えてくれました。