「本当に生焼けだったんじゃないの?」
南條修といえば、ここ10年ほどで急拡大した「こんがりハンバーグ」というハンバーグチェーン店の創業者として、テレビにもよく出演している有名な経営者だった。
「南條さんて、いわば肉の専門家でしょ。その南條さんが生焼けだって言うからには、本当に生焼けだったんじゃないの?」
真奈美は康平の顔を疑わしそうに見た。
ただ、康平は慌てて首を振る。
「違うよ。その点は断言できる。むしろちょっと焼き過ぎなくらいだった」
「本当に?」
真奈美の疑いは晴れない。
ただ、肉の焼き方については、康平も少し勉強したことがあるので、自信があった。
「絶対大丈夫。ただ……」
「ただ?」
「そんな有名経営者とは知らずに、こっちも言い返して怒らせてしまったのが残念だな。食い込めるチャンスだったのに……」
康平は罵倒された怒りも忘れて悔しがっていた。
「レアハンバーグ」で食中毒に
それから1ヶ月ほど経った土曜日のことだった。
お昼時にニュースをチェックしていた康平は、ふと、あるニュースに目をとめた。
それは、食中毒のニュースだった。
商店街の夏祭りで、中がまだ赤い状態で提供する「レアハンバーグ」を提供し、生のまま食べたお客さんが食中毒を起こす事件が発生したため、ハンバーグ店が営業停止になったと、そのニュースは告げていた。
そのハンバーグ店というのが、南條修の経営する「こんがりハンバーグ」だったので、康平は驚いたのだった。
康平は早速真奈美をつかまえて、ニュースの内容を説明する。
「あのバーベキューの時に、文句をつけてきた南條修の店なんだけどさ、ハンバーグが生焼けで、食中毒を起こしたらしいよ」
「でも、信じられないわね。あなたが焼いたステーキにクレームを入れてくるくらい、生焼けが嫌いな人だったのに」
真奈美はさも不思議そうに言う。
ただ、康平は別のニュースも調べていて、事態の真相について、自分なりの答えを持っていた。
「なんでも南條修さん自身は、経営のプロではあるけど、調理のことは人任せだったらしいよ。ネットでの集客がうまくて、インフルエンサーも使って、ハンバーグ店は急拡大したけど、調理スタッフの育成が間に合ってなかったみたい。どこかに隙があったんだろうね」
「なるほどね」真奈美も納得したのかうなずいた。
「とはいえ、自分の店のハンバーグが生焼けでも気づかないくらい鈍感なのに、僕のステーキにケチをつけてくるなんてひどいよな」
「まあでも結構そういうものじゃない?人のミスは気づきやすいけど、自分のミスには気づきにくいものだから」
真奈美はそう言うと、厳しい表情で康平に言った。
「あなたもそういうところがあるから、気をつけないとね」
※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
