中古車を勧める嫁の真意

昼下がり、尚子はリビングで新聞の折り込み広告を眺めていた。近くの販売店の車が並んだ1枚に目が留まり、何気なく手に取る。今の車には、ずいぶん長く乗っている。大きな故障こそないものの、そろそろ買い替えてもいいころだと思っていた。

「あれ、車買うんですか?」

「ええ。今のもずいぶん長く乗ったから、そろそろ新しくしようかしら」

結衣が向かいの椅子に腰を下ろす。

尚子は広告を広げながら、まだ何も決めていないのだと話した。自分で運転しやすく、気に入ったものをゆっくり探したい。夫が残してくれた生命保険金もあり、身の丈を越えた買い物さえしなければ、必要以上に切り詰める理由もなかった。

「でも、お義母さんなら中古で十分ですよね」

「……中古?」

「そんなに遠出もしないでしょう? 新車って高いですし」

思いがけない言葉に、尚子は広告から顔を上げた。

中古車が嫌なわけではない。条件に合えば選択肢にもなるだろう。ただ、尚子が自分の車を自分のお金で買うのに、どうして結衣が当然のように「十分」と決めるのだろう。内心むっとしながらも、尚子は穏やかに返した。

「そうね。いろいろ見てから決めるわ」

「中古なら、かなりお金が浮きますよね。その分、夏休みにみんなで旅行へ行きません?」

「旅行……ですって?」

「はい。せっかくなら家族で使ったほうがいいじゃないですか」

その一言で、胸の奥に折り重なっていた不満が、はっきりと形を持った。愛想よく笑う結衣を見据えたまま、尚子は大きく息を吸い込んだ。

●夫を亡くした後、息子夫婦との同居を始めた尚子は、嫁・結衣から家電や孫の教育費などの立て替えを何度も頼まれてきた。返済が終わらないまま、ついには尚子の車代を抑えて、家族旅行へ行こうと提案される始末。積もり積もった尚子の不満は、ついに限界を迎える…… 後編【「もうお金の問題を曖昧にはしないわ」姑の貯金をあてにする嫁に怒り爆発…40万円近い未返済の“真相”が露呈】にて、詳細をお伝えします。

※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。