新居へ迎えられた尚子の思い

長年連れ添った夫を亡くしてからも、尚子は住み慣れた家を離れずにいた。だが、雨のたびに気になる屋根の傷みや、冬になると冷え込む廊下を前に、この先も1人で住み続けられるだろうかと考えることが増えていた。

そんな折、直樹と結衣が新しく家を建てることになったのだ。

「母さんも一緒に住まないか?」

息子の直樹からそう言われたとき、尚子はすぐには答えられなかった。

 

「ありがたい話だけど、私がいたら窮屈じゃないかしら?」

「そんなことないですよ。同居するつもりで間取りも考えてますから。悠斗も、おばあちゃんと一緒がいいって言ってますし」

結衣にもそう言われ、尚子は申し出を受けることにした。新居が完成すると、迎え入れてもらう感謝の気持ちも込めて、直樹夫婦に新築祝いとして100万円を渡した。

「こんなにもらっていいの?」

「いいのよ。お祝いなんだから、気にしないで」

「お義母さん、ありがとうございます。本当に助かります」

直樹が驚く横で、結衣も感激した様子で何度も礼を言った。

そのときの尚子は、新しい暮らしが穏やかに始まったことを素直にうれしく思っていた。

同居を始めてからは、毎月生活費を入れた。日用品や医療費など、自分に必要な出費もすべて自分で出している。息子夫婦に養ってもらうつもりなど、毛頭なかった。

最初に結衣から金の相談をされたのは、新生活にも慣れたころだった。

「お義母さん、実は前の家から持ってきた洗濯機が壊れてしまって……ちょっと立て替えてもらってもいいですか?」

臨時の出費が重なって、今は余裕がないのだという。

「もちろんいいわよ。困ったときはお互いさまでしょう」

「ありがとうございます。あとで必ず返します」

ところが、しばらくすると、また別の立て替えを頼まれた。悠斗の学校関係の出費、家具の買い替え。理由はその都度違ったが、「立て替えてほしい」という台詞は同じだった。

「この前の分、もう少し待ってもらってもいいですか? 今月ちょっと厳しくて」

「ええ、急がなくてもいいわ」

そう答えた直後に、また別の立て替えを頼まれたこともある。返す意思が全くないわけではない。それだけに、尚子も強く催促しにくかった。

何度か直樹に話そうと思ったこともある。しかし、仕事で疲れて帰ってきた息子の顔を見ると、つい口をつぐんでしまう。結衣にまた金を頼まれたなどと言えば、嫌味や告げ口に聞こえるかもしれない。同じ屋根の下で暮らす以上、一度こじれれば直樹にも悠斗にも気を遣わせることになる。それに夫婦なのだから、必要なことは結衣から直樹にも話しているだろう。尚子はそう考え、あえて口を挟まなかった。

だが、立て替えが重なるにつれ、少しずつ違和感が募っていった。

「はあ……まただわ」

もしかすると結衣は、尚子を都合よく利用しているのではないか。そんなことが頭に浮かぶたび、尚子は考えを打ち消した。同じ家で暮らす仲なのだからと。

それでも、小さな引っかかりは消えないまま、今日まで積み重なっていた。