節約し過ぎで失うもの

ここで改めて「NISA貧乏」という言葉について考えてみましょう。背景にあるのは、多くの人が抱える将来への不安です。

「年金だけだと老後資金が足りないかもしれない」
「物価上昇が続くかもしれない」
「医療費や介護費用が心配」

こうした将来の不安があるからこそ、「もっと資産を増やさなければならない」「切り詰めた生活をしないといけない」という気持ちになる。これは自然なことだと思います。

実際、支出を減らせば投資に回せるお金は増えます。資産形成という観点では、多少無理をしてでも運用資金を確保するのは合理的な行動といえるでしょう。

しかし、支出を減らすことばかりに意識が向いてしまうと、失うものもでてきます。例えば、食費を過度に削れば健康を損なうかもしれません。資格取得や学びへの支出を控えれば、将来の収入を増やす機会を逃す可能性があります。旅行や趣味、人との交流に使うお金も減ってしまうでしょう。

もちろん、節約そのものをゲーム感覚で楽しめる人もいますし、お金をあまり使わない生活に満足感を覚える人もいます。ただ、それが性に合わない人にとっては、捉え方が大きく異なります。

そういう人からすると、将来の安心を手に入れるための節約が、現在の生活の満足度を大きく下げる行為になってしまいます。一時のことであれば我慢できるかもしれませんが、それを何年にもわたって続けるのは、精神的にタフでなければ難しいでしょう。

資産が増えると大きくなる運用のインパクト

節約が資産形成に有効なのは間違いありません。ただし、その効果は資産の大きさによって変わってくることは、意外と見落としがちです。

資産がまだ少ない段階だと、利回りが余程高くない限り資産運用のインパクトは小さいため、毎月の節約によって投資に回せるお金を増やす方が資産を増やす効果は大きくなります。しかし資産が増えてくると、節約による増加分のインパクトは徐々に小さくなっていきます。

例えば、収入・支出・利回りが同じでも、資産が10万円の人と1,000万円の人とでは、資産の増え方に大きな差が生まれます。こうしたことから、資産が少ないうちは、運用利回りを上げるよりも収入を増やしたり、支出を減らすことに取り組んだりする方が、資産を増やすうえでは効率的だといえます。

 

NISA貧乏に関する記事の中には、「NISAの年間投資枠360万円を埋めるために極端な節約を続ける人がいる」といったことが紹介されていました。もちろん、それ自体は悪いことではありませんし、その人に倣って資産形成を頑張ろうと思った人もいるはずです。

しかし、資産形成がある程度軌道に乗り、運用というエンジンが働き始めたなら、節約で引き締めていた財布を少し緩める余裕を持ってもいいかもしれません。もちろん収入が支出を上回る赤字家計になるのは回避した方がいいでしょう。それでも、毎月の外食を1回増やすとか、気になる家電やガジェットを買うといった、現在の生活の満足度を上げるための支出を節度を持って増やすことは、決して悪いことではないはずです。