娘のお金に母が違和感

お盆も終わり、夏休みも終盤に入ったある日、夕食後に啓子がリビングでソファに座りドラマを見ていると、隣に未来が座ってきた。その手には分厚いシール帳があった。

「ねえ見てよ、これ。今日、ゲットしてきたんだ」

シール帳を見ると、かわいらしいキャラクターのぷっくりとしたシールがたくさん貼られていた。

「こんなにたくさん、どうしたの? 交換してもらったの?」

「違うよ。今日、利香ちゃんたちとゲーセン行ったらクレーンゲームにこのシールがあったの。それで取ったんだ。結構苦戦したんだよ、これ」

未来は自慢げにシールを見せながら語った。

「いくらくらい使ったの?」

「2000円くらいは使ったかな〜」

「え? に、2000円?」

啓子が驚くと、未来はきょとんした顔になった。

「ちょっと待って。お小遣いは月3000円渡してるよね? そのうちの2000円を使ったってこと?」

すると未来は首を横に振った。

「ううん。おばあちゃんからもらったお小遣い」

「……え? 何それ?」

「遊びに行くたびにおばあちゃんがお小遣いをくれるんだ」

未来の話では、啓子の知らないところで吉枝が何度も数千円程度のお小遣いを渡していたようだ。夏休みに入ってから毎回渡していたとのことで、トータルでは1万円以上を未来に渡していたことになる。

友達とよく遊びに行っているのに、追加でお金をほしがってこないので、上手にやりくりしているのだと思っていたが、そんな裏があったのか。さすがに子どもに渡しすぎだと思った啓子は、吉枝に注意しなければならないと思った。

啓子は未来がお風呂に入っている隙を見て、吉枝の部屋に向かった。ドアをノックすると、吉枝は笑って出迎えてくれた。

「お義母さん、あの、未来のお小遣いのことなんですが……大変ありがたいのですが、私が決まった額を渡してますので、お義母さんから渡すのはやめていただけないですか?」

啓子の言葉に吉枝は驚いたように手で口を覆った。

「あら、ダメだったの?」

「……そうですね。あまり子どもにお金を渡しすぎるのは教育上よくないと思ってまして」

「で、でも別に私は何万も渡してるわけじゃないわよ。お友達と遊びに行くのなら、お金が必要でしょ。だからちょっとだけよ?」

吉枝は言葉を選びながら反論してきた。

「実際に渡してる額は数千円でも、何度も渡したら総額は大きな額になります。あの子には決められた額でやりくりすることを学んでほしいんです」

「でも未来は喜んでたし、私のお金なんだから迷惑はかけてないと思うけど……」

吉枝は視線を落としながら、独り言のようにつぶやいた。

「お気持ちは大変ありがたいです。未来だって喜んでいます。ただ、あの子のためにもお金を簡単に渡すのはやめてください。これは我が家の方針ですから」

啓子は少しだけ言葉を強くして吉枝に伝えた。

「……そんなふうに言われるとは思わなかったわ」

吉枝はそう言うと、扉を閉めた。閉められた扉を見て、啓子は軽く息を吐いた。

●義母・吉枝との同居生活に感謝していた啓子だったが、夏休み中の娘・未来に吉枝が何度もお小遣いを渡し、その総額が1万円を超えていたことが発覚。金銭教育のためにやめてほしいと伝える啓子に、吉枝は「私のお金なんだから迷惑はかけてない」と不満をにじませ、2人の間に思わぬ溝が生まれた…… 後編【「今日も3000円ちょうだい」祖母の小遣いをあてにする小5娘…友人関係まで狂わせた“善意”の代償】にて、詳細をお伝えします。

※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。