エチレンクラッカーの拠点集約へ競合間協議が進行、ファインケミカルでも合従連衡が選択肢に
近年、日本の化学産業において大きな構造変化の波が押し寄せています。その象徴的な動きが、エチレンクラッカー(エチレン製造設備)の拠点集約です。エチレンは合成樹脂や合成繊維、溶剤など、あらゆる化学製品の出発点となる基礎化学品ですが、日本国内のエチレン生産能力は需要の縮小と設備の老朽化が重なり、長らく過剰な状態が続いてきました。千葉地区や水島地区では、かつては考えにくかった競合他社間のクラッカー統合や設備の共同運営に向けた協議が進むなど、業界再編の動きがここ数年で一気に現実のものとなっています。
この背景には、複数の構造的な要因があります。国内の石油化学製品需要が人口減少や製造業の海外移転によって頭打ちとなっていることに加えて、中東や中国が安価な原料を武器に大規模な設備を相次いで稼働させており、コスト競争では日本の汎用品メーカーが太刀打ちすることは難しい状況となっています。さらに、カーボンニュートラルへの対応という観点からも、老朽化したクラッカーを維持し続けることのコストとリスクは年々高まっています。こうした事情が重なり、「規模の経済」を追求した設備の集約・効率化は、石油化学業界においてもはや避けられない選択となっています。
では、こうした再編の必要性は、エチレンのような汎用品領域にとどまる話かというと、そうではないと感じています。半導体材料・電子材料・医薬品中間体といった、いわゆるファインケミカルの領域においても、同様の課題が静かに進行していると考えています。フォトレジストや高純度溶剤をはじめ、いくつもの半導体製造に不可欠な素材において、日本企業は、現在も世界市場で極めて高い競争力を誇っています。しかし、この優位性が今後も自然に維持されると考えるのは楽観的すぎるでしょう。ファインケミカル領域でも、韓国・台湾・中国のメーカーが技術力を急速に高めており、一部品目では代替が現実のものとなりつつあります。また、半導体の世代交代に伴い、求められる材料の仕様も絶えず高度化しており、次世代製品への対応には継続的かつ大規模な研究開発投資が不可欠です。ところが、日本には化学メーカーの数が多く、各々の売上規模が相対的に小さく、品目によっては日本企業同士が激しく競合しているケースもあります。その場合、国策的なバックアップを受けるグローバルな競合と比較して設備投資・研究開発の規模が劣後する可能性があり、まさにそれこそが過去にエレクトロニクス・半導体が辿ってきた道であり、じわじわと競争力が侵食されていくリスクは決して小さくないと危惧しています。
こうした状況を踏まえると、ファインケミカル領域においても、合従連衡を積極的に検討すべき時期に来ているかもしれません。実際、最近ではいくつかの会社から、「日本代表になれる(グローバルに競争優位性を持つ)事業に経営資源を集中する」という声が聞かれるようになってきました。これは大変ポジティブな変化であると考えています。競合企業間も含めた研究開発の共同化、製品ポートフォリオの棲み分け、さらには事業統合によるスケールの確保――これらは、これまでの日本企業にとっては容易ではなかったかもしれませんが、日本が誇る産業の競争力を次世代に引き継ぐためにも、業界全体で大局的な議論が加速していくことを期待したいところです。
