母がようやく知った隆人の苦しみ

志穂は首を横に振った。

「あなたは何も悪くない。私は全部見てたから。隆人は立派に戦ってた。私はとても誇らしかったよ。チームメイトだって誰もあなたを責めたりしてないでしょ? それが答えよ」

「……分かってるよ。でも、それでも思い出しちゃうんだ。負けたときのみんなの顔とか相手の喜んでる顔とかさ。だから友達と遊んだりして思い出さないようにした。バイトをしてるときも何も考えなくて済んだ」

隆人は視線を伏せ、シーツの上で拳を握りしめていた。

試合後の笑顔も、休みなく働き続けたことも立ち直ったからではない。悔しさから逃れるため、必死に動き続けていただけだったのだ。それなのに、隆人はしっかりした子だから大丈夫だと決めつけていた。息子の苦しみに気付けなかったことがただ情けなかった。

「……ごめんね。お母さん、何も気付いてあげられなかった」

そう言いながら、志穂は隆人の肩にそっとふれた。

「昔からしっかりした子だったし、すぐに切り替えられたんだって思ってた。でもそんなわけないよね。あんだけ練習を頑張ってたんだから……。甲子園も見なくなってたし、そういうところで気付くべきだったわ……」

「……俺もごめん。いつまでも、うじうじしてたら情けないと思ってかっこつけてた……」

「そんなことないわ。あなたがそれだけ悔しいのは、頑張ってた何よりの証拠よ。それだけ野球に打ち込めた隆人を私は尊敬してるわ」

志穂がそう言うと隆人は肩を震わせた。声を殺して涙を流す隆人を志穂はずっと見守っていた。

 

   ◇

 

退院後、隆人はリハビリに加えて受験勉強を本格的にスタートさせた。足の状態が落ち着くと、後輩の指導のために野球部にも顔を出し、大学でも野球を続けたいと話すようになった。

志穂はそんな前向きに頑張っている隆人をどんなことがあっても支えていこうと心に決めていた。

※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。