隆人が止まりたくない理由

志穂は隆人が何を考えているのか理解できなかった。

「もう旅行はいけなくなったのよ? それなのにどうしてバイトをする必要があるのよ?」

隆人は寝転がり、こちらに後頭部を向けた。

「金なんていくらあっても困らないだろ? 将来のために貯金しておくんだよ」

「将来のためと言うんなら今は体を休めて、ケガを治すことが大事よ。もし今、無理をしてケガが長引いたり、変な後遺症が残ったりしたらどうするの?」

「家でじっとしてたくないんだよ……! 何もしてないと、嫌な記憶がよみがえってくるんだ……!」

隆人は苛立ちのまま、まくし立てるように答えた。志穂は息を飲んだ。

連日バイトをしたり、友人と遊んだりしていたのは、野球のことを忘れるためだったのだ。あれだけ大切に、熱心に取り組んできた野球が終わったという現実を直視しないために、ひたすら何かをしていただけだったのだ。

「……絶対にいけると思った。今年のチームなら、もっと先までいけるって。まだみんなと野球ができるって本気で思ってたんだ……」

声を震わす隆人を志穂はじっと見つめた。

「……でもあの1試合で全部終わった。もっと投げたかったし、みんなと練習したかった。なのに俺は大事な試合で自分の力を出し切れなかった……。キャプテンなのに、エースなのに、みんなを次へ連れていけなかったんだ……」