<前編のあらすじ>

高校3年生の一人息子・隆人を育てる志穂。野球部のキャプテンでエースを務める隆人は、強豪私立に敗れ、高校最後の公式戦を終えた。人一倍野球に打ち込んできた息子を心配する志穂だったが、隆人は思いのほか明るい様子を見せる。

夏休みに入ると、隆人はそれまでできなかった時間を満喫する。やがて部活仲間との旅行を計画し、その費用を自分で稼ぐため、建築現場の日雇いアルバイトを始めることになった。

隆人は連日のようにシフトを入れ、バイトの後にも友人と遊びに出かけるようになる。さらに、毎年夢中で見ていた甲子園中継にも関心を示さない。志穂は、あまりにも早く野球から離れていく息子の姿に、次第に違和感を覚えていった。

●前編【「ごめん、勝てなかったよ」最後の夏に敗れた高校球児の息子…遊び歩く姿に母が抱いた“違和感”

休みなく働く隆人に起きた異変

バイトを始めてから、隆人はほとんど休みなく働いていた。

さすがに勉強をおろそかにしすぎていると思った志穂が注意しようと思っていた矢先、隆人が働いていた現場から電話がかかってきた。

デスクに座って伝票を整理していると胸ポケットに入れていた携帯が震えたのだ。見覚えのない番号だったし、仕事中だったこともあり、普通なら無視するのだが、このときだけは胸騒ぎを覚えて電話を取った。

「山内隆人さんのお母様でしょうか。今日、隆人さんが作業中に体調を崩して転倒し、救急車で病院に運ばれました」

「えっ……⁉」

驚く志穂に、現場責任者だと名乗る男は病院の名前と住所を伝えてきた。志穂は上司に事情を説明して早退し、すぐに病院に急行した。

看護師に病室まで案内されると、部屋の前に作業服姿の男が神妙な顔をして立っていた。病室のドアを開けると隆人は足を吊るされた状態でベッドに横になっていた。命に別状はないとの看護師の説明を聞いて志穂は胸をなで下ろした。熱中症で転倒し、その際に足の骨を折ってしまったらしい。

看護師が病室から出ていくのと入れ違いで作業服の男が入ってきて、「自分が電話をした者です」と頭を下げた。

「このたびは大変申し訳ありませんでした。休憩や水分補給の時間は設けていましたが、隆人さんの異変に気付くのが遅れてしまいました」

志穂はなんと返していいのか分からず、同じように頭を下げた。

「勤務中の事故ですので、労災としてこちらで手続きを進めます。治療費についてもそこから……。必要な書類もすべてこちらで用意します」

そう言うと現場責任者の男はもう一度頭を下げた。