隆人の意外な反応
男が帰ったあと、志穂はベッド横の椅子に座り、寝ている隆人を見つめた。すると目元がわずかに動き、ゆっくりと隆人が目を開いた。
「隆人、大丈夫?」
隆人はゆっくりと志穂に目を向けた。
「……母さん? 何これ? なんで俺、寝てるの?」
「あなた、仕事中に熱中症で倒れたのよ。そして転んだときに足の骨も折ったみたいなの」
志穂の説明を聞き、隆人は吊られた右足に目を向けた。
「……マジか。全然覚えてないや」
隆人は自分に呆れたように言って天井を見上げた。
「全治は2カ月くらいになるっておっしゃってたわ」
「2カ月……。じゃあ旅行はもう無理か」
志穂はなんと言葉をかけていいか分からなかった。旅行のためにバイトを頑張っていたのにそれがダメになってしまったのだ。
「ま、しゃーないな。みんなにはケガしたから行けないって連絡しておくか」
しかし思いのほか隆人はあっけらかんと話していた。
「……大丈夫?」
「別にいいよ。旅行なんて大学に行ってからでも全然できるし」
あっさりと考えを切り替えたことに安堵しつつも少しだけ違和感を覚えた。あのときと同じだ。最後の試合に負けて帰ってきたときと同じ顔をしている。
「残りの夏休み、リハビリ以外は家でおとなしく過ごしなさいよ。安静にするのも大事だからね」
志穂がそう声をかけると隆人はしばらく無言になった。何か考え事をしているかのように天井を見つめていたかと思うと、急に口を開いた。
「座りながらでもできる仕事とかってないのかな? 母さんの仕事って事務だろ? それなら足が折れててもできるよな?」
「……何を言ってるの? もちろん座ってやれる仕事ではあるけどうちは短期バイトなんて募集してないし、そもそもその足じゃ通勤ができないでしょ?」
「……別にバスとかそんなの使えばなんとかなるし」
