「アニメ見てるのはキモい」

「仕方ないよ。こればっかりは」

「いえ、それは大丈夫なんですよ。僕は別にイケメンってわけじゃないし、年も食ってるし、そんなにもてるタイプじゃないのは分かってますからね」

桜井悠太は運ばれてきた並々つがれたビールを半分ほど一気に飲み干すと、勢いよく言った。

「けど、あんなことまで言わなくたって……」

ドン、と音を立ててビールジョッキをテーブルに置いた。怒りを嚙み殺しているのだろう、桜井の手が小刻みに震えていた。

「あんなこと? 一体、何を言われたんだ?」

後藤が心配になって聞く。

「最初は普通だったんです。お互いいろいろ趣味の話とかもしてたんですよ。それで僕が趣味はアニメだって言ったら、向こうが、『35にもなってアニメ見てるのはキモい』って言い出したんです」

「それはひどいね……」後藤が理解を示した。

「趣味は人それぞれだから、中には気持ち悪いと思う人もいるかもしれませんけどね。ただ、面と向かってそんな言い方しなくともいいでしょうに……」

桜井悠太は暗い表情でさらにビールをあおった。

「一瞬だけ、もしかしたらうまく行くかもって思ったのに、その女性から急にそんなひどいことを言われて、ちょっとショックを受けちゃったんですよね。なんか、キモいって思っているのが、その女性だけじゃない気もしてしまって……」

「と、言うと?」

「世の女性はみんな、アニメを見てる僕のことを気持ち悪いと思っているのかなって。そう思い始めると、どんどん不信感が広がってしまって。会社の同僚の女性とかも、実は自分のことを嫌ってるのかもしれないとか思っちゃうんですよ……」

●桜井さんは立ち直れるのでしょうか? 後編:【「30過ぎてアイドルの推し活してる痛い女」婚活でトラウマを負った35歳男性が30歳OLにやり返した「厳し目の一言」】にて詳細をお届けします。

※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。