スピーカー越しの義母
「母さんがやめたのかな。それとも、遅れてるだけか」
悦子と同様に和毅の声にも深刻さはなかった。
「あ、一応言っとくけど、うちの母は、届かないことに腹を立ててるわけじゃないよ。むしろ、普段ほとんど付き合いもないし、負担になるようなら続ける必要はないって。ただ、一方的にやめたと思われるのは嫌だから、どうするつもりなのか一応確かめたいみたい」
ついつい母を弁護するような言い方になったことに気づいたが、和毅は気を悪くした様子もなくうなずいた。
「分かった。じゃあ、俺が母さんに聞いてみるよ」
「私から連絡しなくていいの?」
「いいよ。うちの実家のことだし」
その言葉に、沙枝子の肩から力が抜けた。和毅に事情を伝えた時点で、自分の役目はほとんど終わったのだと思えた。
「じゃあ、お願い」
「うん。食べたら電話してみる」
夕食後、和毅はテーブルの上のスマートフォンを取り、義母・紀江の番号を呼び出した。沙枝子は食器を重ねて流しへ運ぶ。すぐに終わるだろうと思いながら皿を洗い、布巾を手に取った。義母に繋がると、和毅は通話をスピーカーモードに切り替えた。沙枝子に気を利かせたのだろう。
「母さん、毎年、沙枝子の実家にお中元送ってくれてたんだってね。それで、ちょっと聞きたいんだけど、今年はどうするの? 沙枝子のお母さんから“今年はどうしたらいいんだろう”って連絡あってさ」
その直後、スマホから漏れた義母の声は、沙枝子が思っていたよりずっと鋭かった。
「今年は送ってないわよ」
「どうして? お中元やめるの?」
「あちらから送るべきだからよ」
●両家で3年間続いていた季節の贈答品は、義母の「あちらから送るべき」という思わぬ本音によって、一転して家同士の“上下”を巡る問題へと変わっていく…… 後編【「嫁に出した側が礼を尽くすのは当然」時代錯誤な上下に固執する義母へ夫が告げた結論】にて、詳細をお伝えします。
※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
