<前編のあらすじ>
「30過ぎたら女の価値は大暴落」という仲介人の言葉に怯え、33歳・会社員の麻衣は貯金から100万円を婚活に注ぎ込んだ。
自分を殺して理想の「おしとやかな女」を演じ続けた末に巡り合った、年収900万のエリート・健一。ついに真剣交際に進むと思われた瞬間、彼が突きつけてきたのは「実家の資産証明」と「貯金1000万円の残高コピー」という、あまりにも冷酷な条件だった。
●前編:【「母をがっかりさせたくない」貯金100万円を費やし“本気の婚活”に挑戦…33歳女性がゴール目前で味わった「底なしの絶望」】
高級レストランで壮絶バトルへ
健一の言葉を聞いた瞬間、私の目の前は真っ暗になった。
「貯金、1000万円……?」
震える声で聞き返すと、健一は当然のように頷いた。
「そう。30過ぎてそれくらいの貯蓄もないようじゃ金銭感覚を疑うよ。うちの母も、それなりの家柄の娘じゃないと認めないって言っていてさ。明日までに残高のスクショ、送ってくれる?」
その時、私の中で何かがプツンと大きな音を立てて切れた。
これまで彼に気に入られるために着たくもないピンクのワンピースを着て、言いたいことも言わず、美味しいとも思えない高級料理を笑顔で食べていた。貯金は他ならぬ「婚活で選ばれるための自分磨き」と「相談所への上納金」に注ぎ込んできたのだ。それを、この男は……。
「ありません」
私は、自分でも驚くほど冷めた声で言った。
「え?」
「1000万円の貯金なんてありません。あなたたちに選ばれるために、大金を使ってきましたから。それに、実家の血筋? 資産証明? 何ですかそれ。私は結婚したかっただけで、あなたの母親のコレクションになりたかったわけじゃない!」
周囲の席の客が、一斉にこちらを振り返るのが分かった。健一の顔がみるみるうちに不快感で赤くなっていく。
「な、何を大声で……! だから30過ぎの売れ残りなんだよ。お前、自分の市場価値がいくらだと思っているんだ。年収500万の分際で、僕に選んでもらえるだけありがたいと思え!」
「市場価値、市場価値って、うるさいのよ!」
私はテーブルの上のグラスを掴み、中の水を健一の顔に向けて思い切りぶち撒けた。
「私は商品じゃない! 生きている人間よ! 二度と私の前に現れないで!」
バッグを掴み、私は店を飛び出した。夜の銀座の街を、ヒールを鳴らして走り続けた。涙がボロボロと溢れて止まらなかった。それは悲しみではなく、あまりの悔しさと、そして──ようやく自分の声で叫べたことへの、猛烈な解放感の涙だった。
