「何のために必死になっていたんだろう」
翌日、私は結婚相談所に退会届を提出した。アドバイザーからは「今辞めたら、本当に行き遅れますよ!」とヒステリックに引き止められたが、私はただ無言で電話を切った。
自宅のベッドに倒れ込み、スマートフォンの銀行アプリを開く。画面に表示された普通預金の残高は300万円と少し。
「まだ300万ある」なんて余裕は微塵もなかった。これから一生、誰も後ろ盾のいない人生をひとりでサバイブしていくのだ。もし病気で倒れたら? 1年ちょっと働けなくなれば一瞬で消える、あまりにも心もとない金額だった。
しかし、不思議と胸の奥はすっきりと軽かった。部屋の鏡に映る私は、お仕着せのピンクのワンピースを脱ぎ捨て、着慣れた黒のTシャツとデニム姿だった。その顔は、ここ1年で一番スッキリとしていた。
「私、何のためにあんなに必死になっていたんだろう」
誰かに選ばれ、養ってもらうために、心を殺してお金を支払っていた。そんな他力本願な結婚の先に、本当の安心なんてあるわけがない。
誰かに寄りかかるためではなく、自分が自分らしく生き抜くために、もう一度人生を自分の手で再構築しよう。私はベッドの中で、強く拳を握りしめた。
