個人投資家が「バリュエーションの歪み」を見抜き、銘柄選定に活かす視点を養う本連載。今回はダイキン工業とエリオット・マネジメントの攻防を検証する。株価推移が映し出すガバナンス上の論点に迫ることで、アクティビストが次のターゲットを発掘する条件が見えてくる。

世界ナンバー1のHVAC※(暖房・換気・空調)メーカーに長期投資すれば安心—そう考えてきた個人投資家にとって、ダイキン工業の株価推移は想定外の結果をもたらしている。過去5年間でTOPIXを115%、グローバル同業他社を208%アンダーパフォームしており、世界首位の事業競争力と資本市場の評価の乖離(かいり)は過去最大水準にある。エリオット・マネジメントが2026年4月27日に公開した提言資料を読み解くことで、「事業の強さ」と「株主価値の創造」が必ずしも連動しない構造的な理由が浮かび上がる。

※HVAC…Heating(暖房)、Ventilation(換気)、Air Conditioning(空調)の頭文字

TOPIX比マイナス115%・同業他社比マイナス208%という「株価の現実」

ダイキン工業は、世界170カ国以上でHVAC事業を展開し、グローバル市場シェアは2015年の11%から2024年には14%へと拡大してきた。住宅用から産業用まで一貫した製品体制を持ち、VRV/VRF技術や垂直統合モデルにより、業界アナリストやOEM(製造委託先)幹部からも高い評価を受けている。

それにもかかわらず、株主総利回り(TSR)の観点では、過去5年間でダイキン株はTOPIXを115%、グローバル同業他社(トレイン、ジョンソンコントロールズ、キヤリア、レノックス等)を208%下回った。

エリオット側は、バリュエーション面での劣後を具体的な数字で示す。EV/EBITDA倍率※(NTM:今後12カ月予想ベース)はダイキンが8.9倍に対し、同業他社平均は17.4倍と、48%のディスカウントが生じている。このディスカウントは2023年以前の平均6%から大幅に拡大したものである。

PER(株価収益率)のNTM比較でも、ダイキンは17.9倍と同業他社(Lennox 19.7倍、Carrier 21.1倍、Johnson Controls 27.2倍、Trane 30.9倍)の中で最低水準にある。

ダイキン側は、現状のバリュエーションに関して直接的な反論資料を提出していない。一方でCFOの髙橋孝一氏は、2025年2月5日の第3四半期決算説明会において「株価が長期低迷している要因はいろいろあるが、ROEがずっと下がってきていること、利益率が下がってきていることは認識している」と発言している。