4.各資産形成制度の横顔
資産形成制度について、いくつかの切り口から整理・分類してきたが、制度ポートフォリオ構築の参考のために、ここではいくつかのアンケート調査結果を紹介し、各制度の側面を捉えてみる。
【株式報酬制度】
図表3のアンケート結果はWeb調査により、勤め先(もしくは経営先)の株式報酬制度の実施状況を複数回答可(MA)として尋ねたものである。多くの企業で信託型やストックオプション、特定譲渡制限付株式(RS)などを導入している状況が示されている。ただし利用されている多くは上場企業の役員向けと考えられ、従業員向けは拡大途上にある。また、非上場会社で導入するには課題が多く、実質的に難しい。
[図表3〕株式報酬制度の導入状況
【資産形成支援(財形、年金等)】
図表4は非上場企業も含め600社に対し、福利厚生関連制度・施策の現在の導入状況について、複数回答可(MA)の結果である。選択肢が「資産形成支援(財形、年金等)」という項立てであるため、直接的にどの制度を思い描いて回答しているか不明であるが、資産形成制度のおおよその位置付けがわかる。
上位は、子育て支援、介護支援、健康管理支援であり、資産形成支援は57.5%と、中位の結果である。企業としては従業員が今、必要としていることに注力している表れと見える。人事施策については、広範囲にわたって目を配る必要があり、資産形成支援については、緊急性を問われれば次順位となるであろう。ただ、対象者の範囲で言えば、従業員全員に関係することであり、従業員の生活をより豊かにする施策として、タイミングをみて検討順位を引き上げることが必要と思料する。
[図表4]福利厚生制度の導入状況について
【退職金制度】
図表5は、マイナビ社の調査で転職活動における行動特性調査から抜粋した。日本企業で取り入れられている人事施策・雇用施策30項目について、中長期的なキャリアプランを検討するにあたり、勤め先にどんな人事施策があれば望ましいか(上位5つまで)というアンケートである。
1位は週休3日制、2位は家族手当、住宅手当、そして3位に退職金制度(本稿でいう退職給付制度にあたると考える)がランクインしている。筆者は、転職者はキャリアアップ、報酬アップに関心が高いと思ったが、1~3位をみると休暇、手当、退職金、というキャリアとは異なる次元の回答が占め、意外であった。なお、退職金制度が3位と上位となった解釈としては、退職金制度は基本的な機能として、なくてはならないもののような意識があるのではないか。もしくは転職経験者として必要性を実感したのかもしれない。
[図表5]転職活動における行動特性調査
次に図表6にて、その退職給付制度の普及状況を確認する。
[図表6]企業年金の普及状況
DBおよびDCの制度創設以来の加入者数についてみると、DBでは適年や厚生年金基金からの移行で当初加入者数は大きく増加したが、最近では減少傾向にある。一方、DCは緩やかなながら、コンスタントに加入者が増え、2025年3月末では800万人を超え、DBと肩を並べるまでになった。ただ普及したとは言え、DCは厚生年金被保険者の18%をカバーするにとどまっている。
次に、退職一時金制度の普及率を確認すると、2018年の厚生労働省の調査によれば、企業年金がなく退職一時金制度のみある企業の割合は全体で73.3%、1人以上の企業で27.6%であった。2023年の同調査によれば企業年金がなく退職一時金制度のみある企業の割合は全体で69.0%、1000人以上の企業では25.9%とDBと同様に減少傾向がみられた。
【まとめ】
資産形成制度の中心となる退職給付制度の傾向をまとめると、普及率の観点では、企業年金および退職一時金合計で捉えるとその普及率は高く、未だ中核的な存在である。ただその内訳では、図表7のイメージのとおり、企業が給付額の責任を持つDB・退職一時金のウェイトは縮小方向であり、代わって、企業が給付額に責任を負わないDCや(退職給付制度ではないが)株式報酬など自律的資産形成のウェイトが増加していると考えられる。
加えて、公的年金はマクロ経済スライドにより縮小傾向にあり、老齢期の長期化も進んでいる。このため、これまで以上に自律的資産形成が重要となってきている。結果として、資産形成を支援する制度や情報・教育の提供に対する従業員の関心は一段と高まると考えられる。退職給付制度等の枠組みの充実度に比較して、その活用の仕方、情報・教育の提供は不足していると思われる。この制度活用支援ニーズに対応していくことがこれからの広義の資産形成制度として重要である。
[図表7]自律的資産形成ウェイトが高まる





