「これは……私の遺言です」
「これは……私の遺言です」
動画の中の剛士さんは、ぜいぜい息を切らしながら言った。拓海さんは思わず姿勢を正す。
その後に続く言葉は、想像を超えるものだった。
「財産は……、拓海に6割、智徳に4割で相続してほしい」
拓海さんは息を飲んだ。智徳さんも驚き、スマホの画面をのぞき込む。
動画の中の剛士さんは、淡々と遺言の理由を語る。
「智徳は遠くの大学に行かせてやれた。一人暮らしもさせた。その甲斐あって長男らしいまっすぐな子に育ってくれた。自慢の息子だ」
「だが、一方、拓海には……、色々と我慢をさせてしまった」
剛士さんの語る通り、拓海さんは幼いころから我慢を強いられていた。
本人の控えめな性格もあって、家計の事を考え、いつも無難な選択しかしてこなかった。
本当は私立高校に行きたかったが、その学費が高いことを知ると、進路を公立高校に切り替えた。大学も第一志望は県外の大学だったが、学費のことを考えて断念していた。
他にも部活や塾など、細かく挙げればきりがないほど、拓海さんが我慢してきたことは枚挙にいとまがない。
そのことを、剛士さんはずっと気にしていたのだ。
「せめて最後くらいは、拓海に多めに残してやりたい。」
動画の最後は剛士さんの涙で締めくくられていた。
僅か数分程度の動画だったが、兄弟はその間一言も発さず、動かず、ただただ動画に見入っていた。
●「動画の遺言」ははたして有効なのでしょうか。後編【「どうしても内容証明を送ってください」亡父の「遺品のスマホ」から見つかった「遺言動画」を拒否する兄に弟が取った対策の中身】では、有効性が認められる遺言書の形式について解説します。
※プライバシー保護のため、事例内容に一部変更を加えています。
