ファイルの名前は「遺言書」

兄弟が話し合いを始めてから数年が経ち、長らく闘病していた父・剛士さんが亡くなった。

兄弟二人は悲しみに包まれたが、ずいぶん前から覚悟していたことでもあり、粛々と遺品整理を始めた。

衣類、通帳、病院関係の書類……。静まり返った実家で、二人は淡々と整理を進めていく。

作業の途中、拓海さんはふと、剛士さんが生前に使っていたスマートフォンを手に取った。

「親父、機械に詳しかったよな」

そう質問すると、兄・智徳さんが答える。

「ああ。俺たちがパソコンやスマホに苦手意識がないのは、親父の影響かもな」

そんな会話をしながら、拓海さんは、剛士さんのスマホを操作し、電話帳アプリを開いた。

もちろん、電話帳に登録されている剛士さんの知人や親戚に、「父が亡くなりました」と連絡を入れるためだった。

「そうだ……、親父が撮影した写真や動画も一応バックアップしとこうかな。お見舞いのときに一緒に撮った写真なんかもあるしさ」

拓海さんはそう言って、そのままスマホのデータの捜索を続ける。

と、その時、スマートフォンのデータフォルダの中に、妙に目立つファイルがひとつ残されていることに気づいた。

ファイルの名前はなんと「遺言書」となっている。

深く考える間もなく、拓海さんは無言でその動画を再生した。

画面には、ベッドの上で弱々しく座る父、剛士さんの姿が映っていた。

動画の中の剛士さんはゆっくり話し始めた。