「嫌な思いをしたことがありまして……」

松沢拓也は、10人ほど入れる会議室の一角に座って、なにやら仕事をしていたが、会議室のドアが開き、会長の的場が入ってきたのを認めると、さすがに無視するわけにはいかずに立ち上がり、会釈をした。

「どうも、ご無沙汰しております」

的場は丁寧に頭を下げ、できるだけ柔らかい口調で言った。

「実は、トラブルで会社HPのリニューアルの話がストップしていると聞きまして、何があったのか松沢さんからお話を聞きたいと思いまして……」

的場が言うと、心当たりがあるのか、松沢の表情が曇った。

的場は一瞬だけ、彼が怒り狂い反論してくることも予想したが、松沢の反応はしごく穏やかだった。

「米倉さんに対して失礼なことを言ってしまって本当に申し訳ございません。すぐ謝罪すべきと思いましたが、自分でもどうすればいいか分からなくなってしまいまして……」

的場は言った。

「大丈夫です。米倉のほうも怒ってはいませんから。何か理由があったのでしょうか?」

「実は……」松沢は少し言いにくそうにしていたが、やがて説明をはじめた。

「私がまだ20代のころの話なのですが、とある会社のシステム改修の仕事で、嫌な思いをしたことがありまして……」

「嫌な思い?」

松沢はうなずいた。