保険料の決まり方を知っていますか

「健康保険料とか厚生年金保険料とか、払ってるじゃないですか。あの金額、どうやって決まるか大森くん知ってます?」

口のなかを水で流したあとで向けられた平嶋からの質問に、真は首をかしげて考えこんだ。

「うーん、給料……年収とかですかね」

「4月から6月に支給された給料の平均額で決まるんです。もちろん計算対象は残業代も込み。つまりその期間で働きすぎると、保険料が高くつく」

真はカツレツを口へ運ぶ手を止め、平嶋の話に聞き入っていた。保険料の金額などこれまでほとんど気にしてこなかった。それはいつの間にか自動的に引かれているものでしかなく、高いとか低いとか、もちろんどうやって決まっているのかなんてことに考えを巡らせたことがなかった。

「だから、この時期はあまり残らないようにしてるんです。幸い決算の3月は過ぎてるし、繁忙期ともずれてるし、効率よく業務をさばいておけば、定時に帰れますしね」

「だから定時で帰ってたんですね」

「もちろん残業の必要があったら残りますけどね。会社のみんなに迷惑をかけてまで残業しませんって感じではないので」

真は説明を聞きながら、平嶋がいろいろと考えて動いてるのだと実感した。会社にいるときは感情が見えず、どこか機械のように思っていたところもあった。

「それに僕たちが残業をしなかったら残業代を払わずに済むだけじゃなくて、会社負担の保険料だって減りますからね。ちょっとしたライフハックです……とはいえ僕も3年くらい前に知ったばかりなんですけどね」

「……俺も定時で帰ってみようかな」

「いいんじゃないですか? なんとなくみんな惰性で残ってるだけで、自分の仕事さえ終わってたら問題ないと思いますよ」

 

   ◇

 

それから真は1日のスケジュールを細かく決めて業務を行うようになった。最初からうまくいくことはなかったが、続けていくうちにどれくらいで作業を終えられるかが分かるようになっていき、スケジュール管理がしやすくなった。また、定時で帰るという目標ができると、これまでなんとなくでこなしていた業務に無駄があったことにも気がついた。自分の動きで改善できるものは平嶋にもアドバイスを受けながら改善し、少しずつ業務を効率化していった。

そして2週間が経ち、ついに就業時間内に仕事を終わらせることができ、余裕をもって定時退社をした。

華金ということで通行人たちの顔も心なしか明るく見えた。ふと、欲しかったキャンプギアのことを思い出した真は、少し足をのばして家とは逆方向の駅にある専門ショップに向かうことにした。

※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。