<前編のあらすじ>

春から転職した真は、新しい職場になじみ始めていた。部署では日常的に1~2時間の残業が習慣化しており、真も残業代を稼げることに特段の不満はなかった。

しかし、隣席の同僚・平嶋だけは毎日定時きっかりに帰宅していた。仕事が早く頼りになる一方で、どこか近寄りがたい印象を抱いていた真は、その行動を不思議に思いつつも深くは聞けずにいた。

先輩社員によると、平嶋は「毎年4月ごろだけ早く帰っている」らしいことを聞く。真はますます、平嶋の行動の真意が気になり始めていた。

●前編【「みんな惰性で…」残業が当たり前の転職先…頼りにしていた同僚はなぜ4月だけ定時で帰るのか

ようやく聞けた定時帰りの理由

それから真は順調に仕事も覚え、塚田など他の社員たちとは残業終わりにそのまま居酒屋に行くのが恒例となっており、新しい職場にどんどん順応していった。

とはいえ、その間も残業をすることはなかった平嶋とは、飲みに行く機会もなく、業務での付き合いがあるだけだった。

あるとき、真は昼休憩を取りに会社を出ると、平嶋の姿を見かけた。

「平嶋さん、どこで食べるか決めてますか?」

とりあえず声をかけてみると、平嶋は軽くうなずいた。

「ああ。この先の洋食屋に行こうかと思ってたところです」

「もし嫌じゃなかったら、俺も一緒に行っていいですか?」

「ああ、もちろんです。カツレツセットがめちゃくちゃうまいんですよ」

平嶋はあっさりと快諾してくれたので、2人で洋食屋に入った。店内はオフィスから近いこともあり盛況だった。カツレツを注文して待っていると、平嶋が口を開いた。

「もう慣れました?」

「ああ、はい。入力業務はもうすっかり慣れました。みんなもよくしてくれますし、助かってます」

「そっか。うち、変に残業多いし、飲みに行くとかも多いし、けっこう古風なんですよね。そういうのが嫌な人も多いから、大森くんがそうじゃなくて安心しました」

「全然大丈夫です。でも平嶋さんはいつも早いですよね?」

聞きやすい話の流れになったので、真は疑問を口にした。

平嶋は当然のようにうなずいた。

「そうですね。まあ、この時期は特に定時で帰れるように心がけてるんですよ」

「この時期はって、どういうことですか?」

真が尋ねたところで料理が運ばれてきた。2人はとりあえず食事を始めた。カツレツは食べごたえがあるのに、思いのほかあっさりしていて、仕事の昼休憩で食べるのにはぴったりだと思った。