納得できない佐奈の反論

「うーん……」

ファイルを下にスクロールすると、「借主負担での原状回復が必要です」とだけ、短く書かれている。

「この金額、ほんとに合ってるのかな」

不安をごまかすようにつぶやくと、佐奈はまたPDFを開き、請求額をじっと見つめた。このままでは荷解きどころではない。画面に表示されたオーナーの連絡先へ視線を落としながら、佐奈は浅く息を吐いて決意を固めた。

「よし」

発信ボタンを押すと、呼び出し音は2回で途切れた。

「はい、北山です」

「あの、先日退去した小園です」

「ああ、小園さんね。はいはい、どうしました?」

思ったよりも雑な北山の態度に、佐奈は反射的に身構えた。

「先ほど届いたメールに、修繕費の請求が添付されていたので、確認のためお電話しました。床の全面張替えまで必要と書かれていて、金額もかなり高いので、私宛の見積もりではないのではと思ったのですが」

「いやいや、小園さんに送ったものですよ。もちろん合ってます。どれも必要な修繕ですから」

予想外の強い口調に、佐奈はいったん唇を閉じてから、言葉を選び直す。

「ですが、退去の立ち合いのときには、そんなお話は出ていなかったと思うんです」

「あのときは部屋の状況を確認しただけですからね。その場では具体的な金額なんて言えませんよ。メールで送ったものが、最終的な判断です」

「そうだとしても、私、そんなに大きな傷をつけた覚えはないです」

「ですが、長く住まわれていましたよね。その分、原状回復が必要になるのは当然です」

ひるみそうになるのを堪えながら、佐奈はスマホを持ち直し、目の前の床へ視線を落とした。