退去後に届いた想定外のメール

日が傾きかけたころには荷解きも一段落し、佐奈は大きく伸びをした。

「ふう、疲れた……」

腰をそらせたそのとき、冷蔵庫の上に置いたスマホが震えた。新着メールの差出人を見て、佐奈は手を止めた。

北山――。マンションのオーナーの名前だった。

「……何だろう?」

退去立ち合いは、2日前に終わっている。室内の確認もその場で済み、北山は淡々とメモを取りながら見て回っただけで、特段何かを言われた記憶はない。

佐奈はまくった袖を元に戻しながら、スマホを手に取った。メールの件名は「退去後修繕費用について」。その文字を見ただけで、わずかに鼓動が速くなる。PDFを開くと、そこには想像していたよりずっと容赦のない言葉が並んでいた。床材全面張替え、壁紙一部補修、クリーニング追加費用。末尾には想像をはるかに超える合計金額が書かれていて、佐奈は思わず画面を持つ手に力を込めた。

「え……高すぎない?」

新居での初期費用に加え、新しい家具の買い足しで、今月はただでさえ出費が多い。その上に25万円の請求は、あまりに重い。

「全面張替えって……そんな傷、あった?」

佐奈はスマホを握ったまま部屋の中をうろうろと歩き回り、記憶を呼び起こす。たしかに、ベッドやテーブルなどを置いていた場所には跡が残っていたかもしれない。しかし、それは普通に暮らしていれば当然ありえる程度の傷だ。