普通借家契約は原則として自動更新

翌日。隆仁は友人の一人、松田和弥にラインを送ってみた。和弥は不動産会社に勤めていて、宅建も持っている。一戸建ての売買の仕事をしていると聞いていたが、賃貸契約についても、隆仁よりよっぽど詳しいはずだった。

隆仁が事情を説明し、どうすればいいのか聞いたところ、和弥はすぐに返事をくれた。

「ひどいオーナーだな。けど、交渉の余地はあると思うよ」

「本当?」

「ああ。まず、お前の家って、定期借家契約? それとも普通借家契約?」

「普通借家だと思うよ」

「普通借家契約って、原則として自動更新されるんだよ。だから家賃の値上げに応じなくても、いきなり追い出されることはない」

「え、そうだったのか……」

隆仁は驚いた。

「次に、家賃を値上げする場合は、理由が必要なんだ。周辺の家賃相場が高くなっている、とかね」

「そうなんだ」

「だから、周辺の相場を調べてみて、新しい家賃があまりにも高すぎるなら、値下げさせられると思う」

「なるほど……」

「もちろん、賃貸契約もベースは信頼関係だから、値上げの意志を無視しつづけるのはまずいけど、ある程度交渉の余地があると思うぜ」

「わかった。助かったよ。恩に着る」

隆仁は礼を言った。

文書を作成し、プリントアウトして管理会社に送った

隆仁はネットで練馬区の家賃相場を調べてみた。住んでいるマンションの近隣物件の家賃を調べてリストにしてみると、いきなり倍にするのはさすがにやりすぎだが、2万円くらいの値上げなら許容すべきだと思った。

「周辺相場を見ると、オーナーが要求する家賃は高すぎる。2万円くらいの値上げなら妥当なので応じる」という主旨の文書を作成し、プリントアウトして管理会社に送った。

すぐに管理会社から「検討する」という返事があった。

その後もこれまで通りの金額で家賃を払い続けていたが、1か月ほど経過した3月末に、管理会社から再び茶色い封筒が届いた。

中には、隆仁の要求通り、2万円の値上げで応じるという文書が入っていた。

「よっしゃー!」隆仁は部屋で一人、ガッツポーズで叫んでいた。

家賃の値上げは避けられなかったが、倍という法外な家賃を払うことは避けられたし、気に入っている部屋に住み続けられるのも助かる。

それ以上に、あのオーナーの鼻をあかしたという満足感が、隆仁の全身をかけめぐっていたのだった。

※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。