<前編のあらすじ>

日高隆仁(仮名、36歳)は都内のアパレルメーカーに勤務する会社員だ。練馬区の1DKで一人暮らしをしていたが、突然、管理会社から家賃の値上げを通知された。

少しくらいの値上げは覚悟していたが、管理会社によると、いきなり倍になるという。

賃貸契約が切れるまであと1か月。そんなギリギリのタイミングで大幅に値上げするのは納得できない。隆仁は管理会社に食ってかかったが、なしのつぶてだった。

「新しいオーナーと直接交渉してほしい」と言われた隆仁は、オーナーに電話をかけたのだが……。

●前編:【「来月から家賃が倍になります。嫌なら出て行って」練馬区在住36歳男性が愕然とした「新しいオーナー」からの手紙】

 

「私のことを悪人みたいにいわないでよ」

仕事を終え帰宅した隆仁は、家につくやいなや、管理会社に教えてもらった新しいオーナーの番号に電話をかけた。

時刻は夜9時近くだったが、管理会社からは、むしろ夜のほうがつながると聞いていた。

4回ほどコールした後で、電話がつながり、高齢の女性の声が聞こえた。

「山田ですが、どなた?」

日本語は流暢だったが、どことなく外国語なまりのようにも聞こえた。外国人オーナーと聞いていたが、日本人の名前を名乗っているのは、もしかすると日本の国籍を持っているのかもしれない。あるいは、「通名」という奴かも……。短い時間のあいだに隆仁はそんなことを考えてから、口を開いた。

「あの、練馬の〇〇マンションに住むものですが……」

「ああ、家賃の件ね。管理会社の人から聞いてますよ」

「山田」と名乗るオーナーは思ったより愛想もよく、管理会社の担当者よりもずっと紳士的な対応だった。ただ、家賃について考えを改める気はないと断言した。

「家賃は下げられないよ。来月から14万円ね」

「しかし、もともと7万円だったんですよ。1万円くらい上がるならまだわかりますが、いきなり倍になるのは納得できません」

「家賃をいくらにするかはこっちが決めることでしょ? 納得できなくても、払ってもらうしかないですよ」

「でも、賃貸契約が切れるのは来月の3月末なのに、もう2月末ですよ。値上げするにしても通知が遅すぎませんか?」

「契約が切れる1か月前までに通知したから、問題ないはずよ」

「法律上そうかもしれませんけど、そんなやり方はひどすぎますよ」

隆仁が食い下がると、オーナーはイライラしてきたのか、少し早口になって言い返してきた。

「ひどいってどういうこと? 私のことを悪人みたいにいわないでよ。こっちはちゃんと法律を守っているよ。何が悪い?」

「だって、いきなり家賃が14万円になったら誰だって困りますよ!」

ここで言い負かされてはいけない。そう思って隆仁は断固そう主張したが、オーナーは鼻で笑って聞いていた。

「14万は高い? 全然高くないよ。あのくらいの広さならもっと値上げしないと採算が取れない」

「もっと? さすがにそれは困りますよ」

「どっちでも一緒よ。何、あなたお金ないの? 最近の若者、お金ない人増えたね」

電話の向こうから、オーナーの笑い声が聞こえた。

「とにかく、値下げはしない。嫌なら出ていってね」

電話が切れた。隆仁は悔しさのあまり、唇をギリギリと音が鳴るほど強く噛みしめていた。