「これまでの倍じゃん……」

管理会社から届いていたのは、茶色い安っぽい封筒だった。中にはA4ペラ1枚の書類が四つ折りで入っているだけだ。

「賃貸契約の更新について」と題された手紙には、値上げを希望する旨と、新しい家賃が書かれていた。

その額を見て、隆仁は愕然としたのだった。

「え、これまでの倍じゃん……」

これまで7万円で住んでいたのに、新家賃は一気に14万円を超えるという。契約更新料と保険料など、あわせて約17万円ほどを振込むよう指示されていた。

「インフレになっているから、多少の値上げは覚悟していたけど、一気に倍はさすがに予想してなかったな……」

隆仁はあまりのことに呆然としてしまった。

慌てて周辺の家賃相場を調べてみたが、好立地とはいえ築30年を過ぎた一人暮らし物件として、14万円の家賃は高すぎるようだった。

「出ていってもらうしかないですねえ」

翌日、仕事の合間を縫って、隆仁は管理会社に電話をしてみた。

更新の通知を受け取ったこと、新家賃は高すぎると思うことを説明したところ、管理会社の担当者は電話口で露骨にため息をついたのだった。

「そう言われましてもねえ……。オーナーさんの方針ですからなんとも……」

電話なので年齢はわからないが、おそらく50代くらいの男性のようだった。花粉症なのかやや鼻声で、あまり悪びれる様子はなかった。

「でも、相場よりもかなり高いですよね」

「ただ、家賃をいくらに設定するかは、オーナーの自由ですから」

「え、でも、俺ずっとこの部屋に住んでるんですよ?」

「でも、嫌なら、出ていってもらうしかないですねえ」

「そんな、困りますよ!」

隆仁は思わず大声をあげていた。オーナーがどんな人間か知らないが、足元を見て、一方的な交渉をしかけてくるのは腹が立つ。

「我々に言われてもねえ。不満だったら、オーナーと直接話してくださいよ」

そう言って管理会社の担当者は、オーナーの連絡先を告げた。隆仁は連絡先をメモしてから、絶望的な気持ちで電話を切った。

家を追い出されたらどうしようという不安もあったが、それ以上に腹が立って仕方がなかった。午後の仕事の間も、むしゃくしゃした気持ちが収まらなかった。どうやってこの状況を乗り切ろうかと、隆仁は必死に頭をめぐらせていた。

「こっちの言い分のほうが絶対正しいんだ。悪徳オーナーの思い通りになんて絶対させないぞ……」

●「新しいオーナー」との直接交渉はまとまるのでしょうか? 後編:【「最近の若者、お金ない人増えたね」新しいオーナーの「侮辱発言」に激怒した36歳男性の「倍返し大作戦」】にて詳細をお届けします。

※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。