町工場を支えた「右腕」の退職

地方で自動車整備工場を営む松本浩一さん(60歳・仮名)。社員5名の小さな会社ですが、地域では長年営業してきた整備工場でした。

妻の陽子さん(58歳・仮名)は会社の事務を手伝っていました。とはいえ、あくまで手伝い程度で本格的な総務・労務業務は、創業当初から一緒に働いてきた右腕である佐藤健一さん(仮名)が担っていました。

しかしある日、その佐藤さんが退職します。

理由は、松本社長の経営姿勢でした。

節約を訴える佐藤さんの言葉を聞かずに節度なく会社の経費を使う。一方で事務所や現場の効率化については無関心で設備投資は出し渋り、日々の経営は場当たり的。そして、引き金となったのは、会社のお金を公私混同したことでした。

「それ、会社の経費で落としますか?」

佐藤さんがそう問いかけたのは、社長が趣味のバイクを購入したときでした。しかし松本社長は意に介さず、「細かいことはいいんだ」と取り合いませんでした。

それをきっかけに、長年支えてきた佐藤さんは見切りをつけて退職したのでした。右腕を失った工場は、一気に混乱しました。

陽子さんが事務を引き継ぎましたが、帳簿の記帳は何か月も溜まり、請求書の発行も遅れがちになり、請求漏れも発生し、資金繰りは急速に悪化します。

佐藤さんが担っていた部品発注や請求書作成の業務も、社長自らが慣れないまま対応することになりました。その結果、作業は遅れ、仕事を抱え込むようになり、売上につながらない状況が続きます。

ついには松本さんが個人で消費者金融から借り入れをして資金を回す状況にまで追い込まれました。

陽子さんはその頃を振り返り、こう話します。

「毎日が不安でした。会社のお金がいくらあるのかも、ちゃんと分からない状態だったんです」

そして、追い打ちをかけるように発覚したのが、助成金の不正受給でした。

●松本さん夫妻には次から次へ危機が襲いかかります。後編【「頭が真っ白になりました」還暦で資産ゼロに…「運が悪かった」では済まされない、経営者夫婦が知らぬ間に越えてしまった"取り返しのつかない一線"】で詳しく紹介します。

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