報酬満足度向上に向けた企業のアプローチ

ウェルビーイング経営を掲げている企業でも、ファイナンシャルの分野は相対的に優先度が低くなりがちです。従業員の資産形成支援がエンゲージメント向上にどう貢献するかは見えづらく、経営直結の施策としては賃上げなどによる給与の処遇改善が先に挙がります。ファイナンシャル・ウェルビーイング(FWB)の取り組みの意味も、「資産形成支援により従業員の家計ストックを増やすこと」「DCの活用率の引き上げ」のみと捉える企業が少なくありません。もちろん一面では合っていますが、実際には年収の高低とFWB度は必ずしも一致しません。

ミライ研の調査では、年収700万円以上でFWB度が低い人は、年収300万円未満でFWB度が高い人に比べて「学ぶ・把握・相談・行動」という4つのプロセスの実施率が低いという結果が出ています。FWBには客観的な水準の高さだけではなく「お金・家計との向き合い方」が重要なのです。

それでも報酬水準の引き上げこそ最優先と考える方も多いでしょう。しかし、行動経済学の「相対所得仮説」が示すように、所得への満足度は過去の自分や親の姿、周囲の同僚との比較によって決まります。ウェルビーイング学会の調査でも、ウェルビーイングへ最も影響を及ぼすのは報酬水準そのものよりも「所得に対する主観的な感情」、すなわち「今の所得で満足に暮らしていけるか」という自信や安心感であることが示されています。加えてミライ研の調査でも、年収と報酬満足度の相関はおよそ1,000万円を超えると頭打ちになる傾向が見られます。企業は報酬満足度の要因において主観的側面も考慮することが求められているのです。

では、担当者は従業員の報酬満足度やFWB向上にどう取り組めばよいでしょうか。ミライ研の調査では、報酬に満足している群はどの年収帯でもライフプランを立てている割合が高く、金融リテラシーの自己評価も高い傾向が示されました。年収水準と報酬満足度の関係を示すデータでは、金融教育を受けた群はどの年収帯でも報酬満足度が上にシフトし、退職金水準を知っている群でも同様の効果が確認されています(図)。

図:金融教育や退職金水準の差が報酬満足度に与える影響

出所:三井住友トラスト・資産のミライ研究所作成

これらのデータを踏まえると、企業にとっては「給与水準の向上(ハード面)」と「金融教育によるリテラシーの習得・退職金水準の認知(ソフト面)」の両面からの施策が有効といえます。そしてこれらの施策を促進する制度がDCです。投資教育が努力義務とされ、老後資金を自ら能動的に運用・積み立てる仕組みであるため、金融教育と退職金水準の把握を促しやすい特性があるからです。