販売金融機関を動かすインセンティブ

いかに優れた制度設計も、それを現場で担う金融機関が動かなければ机上の空論に終わる。

国債販売は長らく、重要だが儲からない業務と見なされてきた。煩雑な説明義務や事務負担に対し、収益性は低い。この構造を放置したまま、金融機関に国債消化への協力を求めるのは現実的ではない。

そのため、販売金融機関のインセンティブを引き上げることも必要となろう。国債の取扱手数料の水準や構造を見直し、新規顧客の獲得数、デジタル販売の比率、顧客の残高維持率といった具体的な成果に連動させる仕組みを導入しては如何だろうか。国債消化を担う金融機関に対しては、公共的役割の強調だけでなく、それが経営的合理性に合致する構造を提供する必要がある。制度として報われる仕組みが確立されて初めて、持続的かつ積極的な販売活動が期待できよう。

向かい風でも帰れる航路を整える

ここまで述べてきた国債消化促進策は、一見すると保守的に映るかもしれない。しかし、これは決して守りの政策ではない。財政健全化は喫緊の課題であり、普通国債残高は2025年度末には1,129兆円に達すると見込まれ、日本の債務残高はGDPの2倍を超え、主要先進国の中で最も高い水準にある。この厳しい現実の中で、高市政権が掲げる17分野への投資促進という国家としての大きなリスクテイクを可能にするための、極めて実践的な攻めの財源政策なのだ。

一つの比喩で結びたい。古の海洋人は、新天地を求めて大海原に出る際、あえて向かい風の時を選んだという。追い風に乗れば確かに遠くまで行けるが、ひとたび判断を誤れば、帰る術を失う危険がある。向かい風であれば、進みは遅くとも、いつでも舵を切れば港に戻ってこられる安心感がある。これは、チャレンジそのものを止めることではなく、いざという時に安全に帰還できる「航路」をあらかじめ整えておくことの重要性を語っている。

金融機関の務めもまた然りである。顧客に新たなリスクテイクを勧める前に、安心してチャレンジできる道筋を示さなければならない。国債は、新たなチャレンジを始めようとする人々にとって、帰ってきやすい選択肢の一つである。この「安心して出航できる港」を整備することこそが、次なるチャレンジを可能にし、日本経済の未来を切り拓く基礎工事となるだろう。