AIを除けば「ほぼリセッションに近い」米国経済
米国経済の成長を牽引する主なドライバーとして3つのテーマに注目している。第1に人工知能(AI)への大規模投資だ。大手テック企業の中でも特にマグニフィセント・セブンが将来の需要を見込み、データセンターやハードウェアへの設備投資を大幅に増やしている。この動きは米国のGDPを押し上げ、関連セクターにも波及効果をもたらしている。
第2は資産効果だ。米国株式市場は過去2年間、年率約20%のリターンを記録し、今年も約13%のリターンを上げると見込まれている。今年だけでS&P500種株価指数の時価総額は約7兆ドル増加したが、その約半分はマグニフィセント・セブンによるものだ。この恩恵は株式を保有する家計の富を増やしているが、一方で格差拡大の一因ともなっている。
第3には金融・財政政策だが、米連邦準備制度理事会(FRB)は2026年に向けて利下げを継続するだろう。インフレの落ち着きが条件となるが、政策金利は3%程度まで低下すると見られ、企業の資金調達コストは下がるだろう。減税を含む財政政策や規制緩和も経済を支えると見ているが、予測不能なトランプ氏のアメリカ・ファースト政策は企業にとって不確実性をもたらすだろう。
前述どおり米国経済の成長の下支えはAI投資にある。テック業界における大規模言語モデル (LLM) や最も高速な半導体の確保を巡る投資に減速の気配はなく、競争が継続している。世帯の富の拡大を示す資産効果も顕著であり、その背景には株価だけでなく住宅価格の上昇も影響している。
ただし米国経済にも弱点は存在する。労働市場は軟化の兆しを見せており、失業率は過去12カ月間、上昇傾向にある。先日発表された消費者信頼感指数はここ数年で最も低い水準となり、多くの消費者が高止まりするインフレと失業率の上昇に苦しんでいる。
関税引き上げの影響は家計にもおよび、例えば輸入品が多い家具や家電などの価格を押し上げている。ただし現在のインフレは深刻な需給不均衡によるものではなく、今後は2~3%の範囲で比較的低位に安定すると予測している。
一方で経済のダウンサイドリスクには注意が必要だ。米国の景気先行指数は過去2年間で急激に低下している。先行指数が大きく低下する一方で、GDP成長率が上昇を続けるという事実は現在の米国経済が「AI関連」と「それ以外」のセクターで二分化していることを示唆している。AI関連投資を除けば米国経済はほぼリセッションに近い状態にあるといえるだろう。
