ウォーレン・バフェット氏が2025年末をもって、バークシャー・ハサウェイのCEOを退任する。世界中から「オマハの賢人」「投資の神様」と称えられ、投資のプロフェッショナルから個人投資家に至るまで、多くの人々が氏の投資哲学に影響を受けてきた。
そんなバフェット氏が第一線を退く――この節目に際し、Finaseeでは金融・資産運用分野で活躍される識者の皆様に「ありがとうバフェット」をテーマに、バフェット氏の歩みから私たちが学ぶべきことは何かを、それぞれの視点でご解説いただく特別企画をお届けする。
今回は、過去の記事でもバフェット氏の投資を取り上げてきたKeyaki Capital代表取締役CEO 木村大樹氏の寄稿を掲載する。
「個別株投資」の巨人としてのバフェット氏
ウォーレン・バフェット氏が世界の投資家に与えたインパクトは計り知れない。彼の言葉、投資スタイル、人生哲学はいずれも誠実で、本質的で、説得力に満ちていた。
語る内容はシンプルで理解しやすく、多くの投資家を引き付けてきた。日本でもバフェット氏の書籍や発言は広く読まれ、ある意味信奉の対象になっている。
だが、ここではあえて一歩距離をとって考えてみたい。
バフェット氏を“神格化”するのではなく、何を私たちが学び、自らの資産形成にどう生かすべきなのかという視点から見直してみたい。
バフェット氏は紛れもなく、「個別株投資」の思想的リーダーだった。
投資先企業のビジネスモデルや経営者の資質を深く分析し、その本源的価値に比べて割安な水準で買い、長期で保有する──このスタイルを一貫して実践してきた。
実際、彼が手がけた数々の個別株投資──たとえばコカ・コーラ、アメリカン・エキスプレス、アップル、そして日本の総合商社──はいずれも高いリターンをもたらし、その慧眼(けいがん)は世界中の投資家にとって畏敬の対象となった。
「バフェット氏=常に株式投資のみ」は誤解
日本では「投資=上場株式」という前提が根強い。
バフェット氏は上場株式の投資で大きな成功を収めてきたが、実際には常にそれだけをやってきたわけではない。
たとえば2008年の金融危機時には、ゴールドマン・サックスやGE(ゼネラル・エレクトリック)と交渉し、年率10%の配当が付いた優先株を取得した。これらは形式上「株」ではあるものの、実質的にはクレジット投資の側面が強い私募取引だった。
近年では短期米国債(T-Bills)へ資産をシフトさせる動きも見せている。
さらに、彼の中核ビジネスである保険会社では、集めた保険料の一部を「フロート」として自由に運用できる。その運用対象は、上場株に限らず、非上場企業、インフラなどにわたっている。
つまり彼は、上場株に常に投資してきたわけではなく、その時々の投資環境に応じて合理的な資産を選んできたと言えよう。
バフェット氏が「インデックス投資」を勧めた意図
バフェット氏が、自らの死後に妻へS&P500インデックスファンドへの投資を勧めたエピソードはよく知られている。
彼がアメリカ経済全体の長期的な成長性に楽観的だったのは間違いない。
ただバフェット氏が伝えたかったのは、「自分が理解できる方法で投資せよ」という原則であり、言うまでもなくインデックス投資が唯一絶対の手法であるということではないだろう。
