老後の生活を支える有力な手段の一つである確定拠出年金(DC)には、個人が加入するiDeCo(イデコ)と企業の従業員が加入する企業型の2つの制度があります。9月16日は2016年に個人型DCの愛称が「iDeCo」に決まった記念日です。両制度の活用と資産運用の必要性を考えるきっかけとして、FinaseeではNPO法人確定拠出年金教育協会の協力のもと、「iDeCo・企業型DCショートエッセイ」コンクールを開催しました。全国の皆さまからご応募いただいた「iDeCo」「企業型DC」に関するご自身の気持ちをつづった力作から、栄えある優秀賞に輝いたニックネームみかこさんの体験談をお届けします。
認知症の祖母が残した人生最後のアドバイス
2020年の夏。社会がコロナ禍に揺れる中、我が家もまた大きな問題に直面していた。母方の祖母が認知症と診断され、急に介護が必要になったのだ。祖父母が住む土地から離れた県に住む私たちに、頻繁な支援は難しかった。一方で祖母の行動には日に日に不安な兆候が目立つようになり、祖父一人での介護は限界に近づいていた。
施設への入所が検討されたが、介護施設の費用は高額だ。両親は学生だった私と兄を抱え、祖母のための資金の工面に頭を抱えていた。
そんなとき、祖母自身が若いころから地道に続けていた貯蓄と医療保険の存在が明らかになった。「自分の老後は自分で守る」。お金の管理が得意とはいえなかった祖母が、未来の自分に責任を持っていたことに、私はとても驚いた。
施設入所の直前、祖母は数日間、わが家で過ごした。私を孫だと認識してくれていたのは、あれが最後だった。スーパーの帰りのエレベーターの中で、祖母はふいに「あなたも幸せになりなさい」と言った。
その言葉は今でも、私の心に強く残っている。あの瞬間の祖母は、しっかりと自分の意思を持ち、優しさに満ちていた。
祖父に愛され、娘や孫に囲まれ、老後の備えも怠らなかった祖母は、確かに自分の人生を自分の手で築いた人だったのだと思う。私もそんなふうに、自分で自分を幸せにできる人でありたい。
iDeCo(個人型確定拠出年金、イデコ)の存在を知ったのは、そんな経験のあとだった。金銭感覚に自信のない私でも、自分で積み立て、運用方法を選びながら、少しずつ将来に備えることができる。企業型確定拠出年金(DC)のような職場での制度も、いずれは自分に関わってくるのだろう。調べてみると、将来のために備える仕組みは意外と身近にあるのだと知った。
お金を考えることは、未来を考えることだ。祖母のように、自分のことに責任を持つ姿勢を私も受け継ぎ、iDeCoを活用しながら、自分の人生をしっかりと築いていきたいと思う。
