老後の生活を支える有力な手段の一つである確定拠出年金(DC)には、個人が加入するiDeCo(イデコ)と企業の従業員が加入する企業型の2つの制度があります。9月16日は2016年に個人型DCの愛称が「iDeCo」に決まった記念日です。両制度の活用と資産運用の必要性を考えるきっかけとして、FinaseeではNPO法人確定拠出年金教育協会の協力のもと、「iDeCo・企業型DCショートエッセイ」コンクールを開催しました。全国の皆さまからご応募いただいた「iDeCo」「企業型DC」に関するご自身の気持ちをつづった力作から、栄えある優秀賞に輝いたニックネーム秀さんの体験談をお届けします。

“donate”の部屋を見落としていた私が気づいた「本当の豊かさ」

子どものころ、アメリカの友人の家で、変わった「ブタの貯金箱」を見せてもらった。丸い胴体に4つの投入口がついたそのブタは、“save(貯める)” 、“spend(使う)”、 “donate(寄付する)”、 “invest(増やす)”の4つの部屋に分かれていた。

「お金って、こうやって使い道を分けて考えるものなんだ」と妙に納得したのを覚えている。

私がiDeCo(個人型確定拠出年金、イデコ)を始めたのは、20代半ばのことだった。将来への不安があったというよりは、制度設計として「やらない理由が見当たらなかった」からだ。

税制メリットが大きく、商品も選べる。「投資=ギャンブル」というイメージがあるかもしれないが、iDeCoは「狩猟」というより「農業」に近いと思っている。

ちなみに貯金は、甕(かめ)の中にお金をそっと隠しておくイメージだ。こんなふうにお金の使い道について解像度を高く考えられるようになったのも、あの貯金箱の“invest”から学んだことなのかもしれない。

最近ふと思い出して、あの貯金箱のことを調べてみた。貯金箱は“Money Savvy Pig”という名前で、今でも売られているらしい。そしてあらためて気づいた。私はまだ “donate”の部屋をちゃんと使ってこなかった、と。

老後に備えるだけでなく、今、誰かのために使うお金もまた、豊かさの一部なのだ。そう感じて、少額ながら寄付を始めた。

未来の安心も、いま誰かを助ける力も。4つの箱の使い方を、自分なりに模索している。

あの貯金箱を思い出すたび、私はお金の未来を、少しだけ前向きに考えられる気がする。