「1人2万円給付」案は、やっぱり票稼ぎのため?

石破茂首相は物価高対策として、国民1人あたり現金2万円を給付し、さらに子どもや住民税非課税世帯の大人には2万円を上乗せする案を表明しました。全体の給付規模は3兆円台半ばにのぼる見通しで、まさに大盤振る舞いといえます。

これが実行されるかどうかはまだ分かりませんが、正直、かなり安易な政策と言わざるを得ません。「もらえるものはもらっておけ」と考える人もいるのかもしれませんが、こうした安易な財政出動が、後々、どのような問題を引き起こすのかについて、もう少し想像力を働かせた方が良いでしょう。

そもそも物価高対策と言っていますが、そんなに日本の物価は上昇しているのでしょうか。消費者物価指数のうち、「コアコア」と称される「生鮮食品及びエネルギーを除く総合」で見ると、2025年4月の指数は109.7です。現在の消費者物価指数は、2020年を基準年としており、2020年7月の指数は100ですから、この5年弱で消費者物価指数は9.7%の上昇となりました。

5年で9.7%ということは、年平均で1.9%です。ちなみに、政府・日銀はかれこれ10年以上も前から、「消費者物価指数の年2%上昇を目標として、徹底したデフレ対策を行う」と公言し続けてきたわけですから、この5年間の物価上昇は、まさにこの目標値をほぼ達成しているわけで、むしろ1990年以降の日本経済の低成長につながったデフレが解消されつつあることを、私たちは素直に喜んだ方が良いのではないでしょうか。

それに物価高対策をするとしたら、国が安易に給付金を出す前に、むしろ企業が賃上げで対応していくのが先のはずです。つまり今回、いきなり出てきた物価高対策のための給付金は、政府与党にとっては次回選挙における票稼ぎの側面が強いことを、理解しておくべきでしょう。

では、なぜ票稼ぎが必要なのかというと、石破内閣が不人気になりつつあるからです。政府備蓄米の放出によって多少、支持率は上がったとはいえ、NHKが6月に公表した世論調査の結果によると、石破内閣の支持率は39%です。

岸田前内閣の2024年9月時点の支持率は、同じNHKの世論調査で20%だったので、それに比べればまだマシですが、一般的に内閣支持率は30%を下回ると「危険水域」、20%を下回ると「退陣水域」と言われています。39%の支持率は、決して安心できるものではありません。今年7月には参院選挙が控えているだけに、与党としては何らかのアピールポイントが必要だったのでしょう。それが大盤振る舞いだということです。