「適応障害は障害年金の対象外」という現実
「なぜなら適応障害は神経症性障害に分類され、障害年金のルール上、神経症性障害は障害年金の対象外とされているからです。このままでは障害基礎年金の2級に該当するのも難しいと思われます」
「長女は障害基礎年金の受給は難しいのですね…。それでも長女が取れる対策は何かありますでしょうか?」
「例えばお嬢さまの適応障害が悪化し、うつ病や統合失調症のような症状は出ていれば、それらを主張して障害基礎年金を請求してみる方法があります。現在、お嬢さまに重い抑うつがある、または『誰かに監視されている』といった妄想や『頭の中で他人の声がする』といった幻聴などはありますでしょうか」
母親はしばらく考え込んだ後、首を小さく左右に振りました。
「いいえ。今のところそのような症状はありません。そうなると長女はもう二度と障害基礎年金は受給できないのでしょうか?」
「そんなことはありません。将来、適応障害が悪化し、うつ病や統合失調症のような重い精神障害が現れたら、その時に障害基礎年金の請求をすることはできるからです。その結果、障害基礎年金が認められることもあります。ただし、その際に17歳当時の初診日の証明ができないと、そもそも障害基礎年金が請求できません。そこで、今のうちに初診日の証明書(受診状況等証明書)を以前通っていた心療内科で作成してもらっておくとよいでしょう」
すると母親は不思議そうな表情になりました。
「適応障害とうつ病や統合失調症は別の病名ですよね。それでも、以前通っていた心療内科での証明書が必要になるのですか?」
「はい、必要になります。今回のケースでは、初診は17歳頃になるからです。適応障害、うつ病、統合失調症などはいずれも精神障害(脳の障害)です。障害年金のルール上、例えば『適応障害と診断された後にうつ病と診断された』という場合、適応障害が悪化してうつ病を発症したとみなされます。つまり、この二つは別々の疾病ではなく、同一疾病とみなされるのです。ざっくりとしたイメージになりますが『適応障害という道とうつ病という道が二本別々にあるのではなく、二つの障害は一本の道でつながっている』ということです。以上のことから、お嬢さまの初診は17歳頃になるのです」
「そうなのですね。その受診状況等証明書は今のうちに取っておいた方がよいとのことでしたが、ずっと後になって取るのでも大丈夫なのでしょうか?」
「可能であれば今のうちに取っておいた方がよいです。なぜなら、病院のカルテは原則、最後に受診した時から5年で破棄されてしまうからです。カルテが破棄されてしまうと、受診状況等証明書を書いてもらうことができません。そのような事態を防ぐためにも、早めに取得しておく方が安心です。なお、受診状況等証明書には有効期限がありませんので、一度入手しておけばずっと使えます」
「分かりました。長女にも事情を説明して、何とか受診状況等証明書は入手しておくようにします」
「将来お嬢さまの症状が悪化したら、障害基礎年金の請求を検討することになるでしょう。請求に向けてお手伝いはできますので、その時はぜひお声がけください」
「はい、分かりました。その際はご相談させていただきます」