真面目な話をしたい
「拓人、今日はちょっと、真面目な話をしてもいい?」
夕飯の片づけが終わったころ、梨香は拓人にそう声をかけた。ソファでテレビを見ていた彼は、少し驚いたように梨香の顔を見上げた。
「うん、いいよ」
テレビを消して、リモコンをテーブルに置くと、拓人はまっすぐ梨香の目を見た。少しだけ緊張しているのがわかる。梨香のほうも、手のひらにうっすらと汗を感じていた。
「この前のことなんだけどさ……私の気持ちを聞いてもらいたいと思って……」
「うん……」
「私ね、拓人との将来を真剣に考えてるの。あなたが重荷に感じるんじゃないかと思って言ってなかったけど、軽い気持ちで一緒に住んでるわけじゃない」
「うん……それは、俺だってそうだよ。梨香ちゃんとずっと一緒にいたいと思ってる」
「ありがとう。でもね、だからこそ、お金のことはちゃんとしたいの」
梨香は言葉を選びながら、慎重に話を続けた。
「私、拓人のこと、すごく尊敬してる。いつも一生懸命で前向きで、人望もあって、友達からも頼られてて……でもね、お金に対する向き合い方だけは……もうちょっと、ちゃんとしてほしいの」
「……」
拓人は黙って聞いていた。少し顔を伏せて、身体の前で組んだ自分の手を覗き込むような姿勢になっている。
「カードの支払いが間に合わなかったのは仕方ないとしても、返すって言ったのに返さないとか、こっちが催促するまで放置するとかは違うと思う。約束を破ったのに、信用してほしいって言われても、無理があるよ。私はね……年齢とか収入とか、そういうの関係なく、拓人と対等な関係でいたいの」
言い終わると、しばらく沈黙が落ちた。部屋の中に、冷蔵庫のモーター音だけが響いている。
やがて、拓人がぽつりと口を開いた。
「……ごめん、梨香ちゃん。俺、梨香ちゃんに甘えすぎてた」
「拓人……」
「正直、仕事もバイトも、いっぱいいっぱいで。それを言い訳にしてた。お金は返さなきゃって思ってたけど、梨香ちゃんが優しいからってなあなあになってた。で、いざ返してって言われると面倒になって逃げた」
梨香は静かにうなずいた。
「……でもさ、梨香ちゃんに信頼されたいって、本当に思ってる。だから、ちゃんと返す。計画立てて、少しずつでも返していくから」
「ありがとう。そう言ってくれて、嬉しい」
梨香が微笑むと、拓人も安心したように笑った。