友人からの申し出
友人の涼子から突然メッセージが届いたのは、ある平日の午後だった。
「桃花、久しぶり。元気にしてる? 会って話したいことがあるんだけど、都合どうかな?」
大学を卒業してから、もう何年ぶりだろう。しばらく連絡も取っていなかった涼子からの連絡に、桃花は戸惑いながらも返信を返した。
「ほんと久しぶり。暇だから、いつでもいいよ」
「じゃあ、明後日の午後で」
涼子が指定したのは、昔よく入り浸って勉強したチェーンのカフェレストラン。桃花にとっては、ひどく懐かしい場所だった。
先に到着していた涼子は、カップを両手で包み込むように抱えていたが、桃花に気づくと立ち上がって少しぎこちない笑みを浮かべた。
「桃花、全然変わらないね。というか、もっと綺麗になった気がする」
「あははっ、ありがとう。涼子こそ……ほんとに久しぶりだよね」
声音こそ穏やかだが、2人のあいだにはどこか遠慮がちな空気が流れている。
大学時代の涼子は、快活で、よく笑う健康的な子だった。ところが、目の前の彼女はやや痩せて、頬が少しこけて見える。
「えっと……涼子は、制作会社に入ったんだっけ? 就活、頑張ってたもんね」
桃花がそう切り出すと、涼子は苦笑いを浮かべた。
「そうそう。だけどテレビの制作会社って、聞こえはいいけど実際は地獄よ。寝られないし、食べられないし、お風呂にも入れないし。で、あっという間に身体壊して退職。今はアルバイトで食いつないでる」
努めて明るく言おうとしているのが分かった。だが、その明るさは少しだけ痛々しい。
「そうなんだ……大変だったね」
「うん……そういえば、桃花は結婚したんでしょう? 旦那さん、会社の社長さんなんだって?」
「あ……うん、実はそうなの。去年入籍することになって……夫は一応自分で会社やってるんだよね」
沈黙が流れる。ずっと疎遠だった涼子のことは結婚式に招待していなかったので、結婚の話は少し気まずかった。
桃花がカップに口をつけると、上目遣いでこちらをうかがう涼子と視線が合った。やがて彼女はためらうように話し始めた。
「……実はね、今日会ったのは、ちょっと桃花にお願いがあって」
「お願い……?」
「あの、お金……貸してくれないかな」
「えっ、お金……? それはどういう……?」
「やっぱ非正規だと生活厳しくて……失業保険はとっくに切れちゃったし、うち親と仲悪くて実家も頼れないから……」
「そう……だったんだ。それで……いくら必要なの?」
「……200万円」