米国国債を売ったのは誰か? 一時「農林中金説」がSNSをにぎわせたが、農林中金は否定
一体、誰が米国国債を売ったのでしょうか。中国が外貨準備に組み入れている米国国債の一部を手放したとか、日本の系統金融機関である農林中金が売却したとか、さまざまな憶測を呼びましたが、農林中金はこれを否定しました。
また中国は、この10年超にわたって米国国債の保有高を年々減らしてきていますから、仮に売却しているとしても、それはこれまでの延長線上の動きであると考えることもできます。
4月の米国国債売りについて言われているのは、株価の下落で運用成績の悪化に見舞われた一部のヘッジファンドが、解約の急増に対応するため、ポートフォリオに組み入れていた米国国債を売却したのではないか、という話です。そもそも運用の中身をオープンにしないヘッジファンドが、本当に米国国債を売ったのかどうかも定かではありませんが、恐らくそれも含めて、さまざまな売り要因が重なったのは事実です。
では、仮にトランプ大統領が関税政策の方針を大きく変えた理由のひとつが、この米国国債の売りだとしたら、それはなぜでしょうか。
最大のリスクシナリオは、米国国債を大量に保有している金融機関等が、米国国債の価格下落によって大きな評価損を抱え、そのバランスシートに毀損が生じて金融不安が高まることです。
振り返ってみれば、2023年3月に経営破綻したシリコンバレー銀行も、保有している米国国債の価格が急落してバランスシートが毀損し、それを懸念した預金者が預金の解約に殺到したことから資金ショートを起こし、経営破綻に至りました。金融不安が一気に広まれば、2008年のリーマンショックが再来しないとも限りません。
しかも、こうした米国国債の価格下落が及ぼす影響は、米国国内の金融機関に限りません。前述した農林中金もそうですが、地方銀行など日本の金融機関も米国国債を保有しており、その価格下落は、海外の金融機関のバランスシートをも毀損させる恐れがあるのです。
トランプ大統領は、相互関税の90日間停止を公表した9日の朝、スコット・ベッセント財務長官と会合したと報じられています。ベッセント財務長官は、ヘッジファンドであるソロス・ファンド・マネジメントにおいて、1992年に生じた英ポンド危機を主導した人物であり、金融に精通しています。事の真偽は分かりませんが、ベッセント財務長官が米国国債の急落について、トランプ大統領に何らかの進言を行ったのだとしたら、米国にとっての「今そこにある危機」は、貿易赤字よりも財政赤字にあるのだと考えられます。