実質経済成長率目標「5%前後」と表明したものの…
こうした政治体制の危うさもさることながら、経済はもっと厳しいのが現状のようです。
今回の全人代では、今年の実質経済成長率目標を「5%前後」に設定すると表明しました。また、国内総生産(GDP)に対する財政赤字の比率は、昨年の3%から4%に引き上げるということです。
ちなみに、実質経済成長率の目標を5%前後に設定したのは、今年で3回連続になります。2023年のそれは5.25%だったので難なくクリアしましたが、2024年は10月時点におけるIMFの推計値で4.82%ですから、一応「5%前後」にギリギリ入るかどうか、というきわどさです。
東京財団政策研究所の柯隆・主席研究員は、産経新聞社のインタビューで、実質経済成長率の目標値を5%前後にしたことについて、「予想以上に慎重な内容だった」と言い、かつ財政赤字の対GDP比を3%から4%に引き上げたことについては、「経済減速の要因である地方政府の債務問題が深刻で、財政出動しなければ対応できない状態に陥っている」と分析しています。
地方政府の債務問題が深刻化しているのは、不動産バブルが崩壊しているからです。
中国の固定資本形成、つまり公共投資を通じて行われる各種インフラ整備は、中国のGDPのうち4割超を占めています。これは世界平均から見て20%近くも高い数字です。いかに中国が、公共投資頼みの経済かということがお分かりいただけるでしょう。
なぜ、ここまで公共投資頼みの経済構造かという点については、武者リサーチ武者陵司代表が詳しくレポートに書いています。
それによると、「中国国家財政は地方が支出の85%を担うという構造になっているが、地方の財政収入の4割が土地利用権売却益によってねん出する仕組みとなっている。地方政府は規制・周辺インフラ整備・金融支援込みで魅力度を高めた土地利用権を売却し巨額の収入を得続け」ており、地方政府が土地を売るほど、「地方政府は極めて収入が潤沢になった。そうした潤沢な資金をインフラ投資やハイテク企業への支援に向けることができた」という構図がありました。
そうだとすると不動産バブルの崩壊は、中国経済を支えてきた固定資本形成に、大きな支障を及ぼすことになります。GDPの4割を占める固定資本形成が機能しないとなれば、ますます中国経済は厳しい状況に追い込まれます。
中国の指導部もそのことは重々承知なのでしょう。今回の全人代においては、3月5日のロイター通信が、「中国全人代 経済不安で『消費回復』前面に」と題した記事を掲載したように、李強首相が、個人消費の押し上げ政策を重視する方針を打ち出しています。
ちなみに中国の個人消費がGDPに占める比率は37%弱です。日本だと60%、米国が70%であることから考えると、37%弱という数字はいかにも低いわけですが、前述したように不動産バブルの崩壊で、固定資本形成が機能しない以上、個人消費を盛り上げなければ、経済が回復しないと考えているのでしょう。