共通の趣味でも価値観の違いが露わに

そんな私と亜里沙の数少ない共通の趣味が野球です。私は中学まで野球部でしたが、亡くなった父の影響で幼い頃からカープファンでした。今も東京ドームや神宮球場での試合には時々足を運んでいます。

逆に亜里沙は“にわか”で、MLBのドジャースの大谷翔平選手のファンです。野球よりも大谷選手の才能やルックス、人間性を好ましいと思っているようで、楽しみ方もまた亜里沙らしく、2024年だけで2度もロサンゼルスに出かけています。ホテルは6ツ星、ついでにミシュランの星付きレストランのディナーも堪能してきたようです。

亜里沙はそういう話を当たり前のように聞かせてくれますが、私からすれば全く当たり前ではありません。どうしてもそこに、亜里沙と私の育った環境や実家の財力の格差を感じてしまうのです。

帰省で目にした母の窮状

さらに、私が気になっているのが郷里で一人暮らしをしている母のことでした。定食屋はとうに畳みましたが、間もなく68歳になる今も近所のスーパーのパートで働いています。最近のLINEでは、「人手不足で店長から頼まれてパートの時間を2時間増やした」と書いてありました。

近くに住む姉にそれとなく母の様子を聞き、母が月額で5万円ほどの年金しかもらっていないことを知りました。年金だけでは暮らしていけないから労働時間を増やしているとしたら、母の体のためにも良くないですし、私が仕送りをすることも考えなければと思いました。そして、ともかく母と話し合ってみようと、亜里沙が実家に帰るタイミングで私も帰省することにしたのです。

実家で目にしたのは、私の想像のはるかに上を行く母の窮状でした。

久しぶりに会った母は白髪が増え疲れた様子で、一気に老け込んだ印象でした。手土産代わりに持参した母の好物の羊羹を食べながら、問わず語りにいろいろ話してくれました。

年金だけでは税金や社会保険料、医療費などを払うのがやっと。スーパーで働いている日は値下げした惣菜などを買ってきて、それで食事を済ませている。近年は光熱費の値上がりが大きいので、自宅で風呂を沸かすのは週2回にしている……などなど。

その日母が羽織っていた毛玉だらけのカーディガンは、私が高校時代に着ていたものでした。そんな母の姿を見ていると、思わず涙がこぼれそうになりました。

「姉貴はそばにいるし、僕とだってLINEで話ができるのに、どうして相談してくれなかったの?」と詰問すると、「だってお前たちにはお前たちの生活があるだろ」と言います。

母には半ば強引に月10万円の仕送りを受け取ることを承知させました。それくらいなら今の私の給料から何とか払っていけそうです。