決算書は企業の成績表ともいえます。ビジネスパーソンにとっても投資家にとっても、決算書を読み解く能力は欠かせません。

とはいえ、数字がずらりと並んだ決算書をただ眺めているだけでは、イメージがわきにくいことも。そこで、中京大学国際学部教授の矢部謙介氏は、ビジネスや投資に活かせる「おもしろい」決算書の読み方を提案しています。それは、決算書をビジュアル化し、ビジネスと結びつける方法です。さらに、競合他社と比較することで、ビジネスモデルや戦略の違いがより明確に浮かび上がります。

今回は入門編として、矢部氏に半導体産業の貸借対照表(B/S)を例に挙げて解説してもらいます。(全4回の1回目)

※本稿は、矢部謙介著『会計指標の比較図鑑』(日本実業出版社)の一部を抜粋・再編集したものです。

半導体“強者”の貸借対照表

半導体業界からルネサスエレクトロニクス(以下、ルネサス)、米エヌビディア、台湾セミコンダクター・マニュファクチャリング・カンパニー(以下、TSMC)の3社のB/Sを取り上げて比較してみましょう。

 

同じ半導体業界に属する3社ですが、それぞれのB/Sの形は大きく違います。まずは、各社の事業上の特徴について触れておきましょう。

ルネサスは、三菱電機と日立製作所から分社したルネサステクノロジと、NECから分社したNECエレクトロニクスが2010年4月に経営統合して生まれた会社です。設立直後は赤字が続き、2013年9月には産業革新機構の傘下となり事実上国有化されたものの、その後構造改革に成功。2023年11月には産業革新機構の後継会社であるINCJが保有株式のすべてを売却したと発表しました。

近年、ルネサスは積極的なM&Aを仕掛けています。

2017年2月にアナログ半導体を手掛ける米インターシルを、2019年3月には米インテグレーテッド・デバイス・テクノロジー(以下、IDT)を、2021年8月には英ダイアログ・セミコンダクターを買収。そして2024年2月には電子基板設計ソフトウェアを手掛ける米アルティウムの買収を発表しています。

エヌビディアは、パソコンに搭載されているグラフィック・プロセッシング・ユニット(GPU)と呼ばれる画像処理演算装置を手掛ける米国の企業です。同社のGPUが人工知能(AI)向けに応用できることから、現在ではAIや自動運転の分野において重要な地位を占めるに至っています。

また、2024年2月には株式時価総額が米Googleの親会社であるアルファベットを抜いて世界ランキング4位になったことでも話題になりました。