そして、「資本コストや株価を意識した経営」の要請へ
2023年3月31日、それまでのフォローアップ会議の論点整理を踏まえ、東証は、プライム市場とスタンダード市場の全上場会社に対して、「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応等に関するお願い」という通知を出しました(資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応等に関するお願いについて)
この要請のなかでは、経営層が主体となり、自社の資本コストや資本収益性を把握し分析・評価すること、改善の方針・目標・期間を策定し投資家に分かりやすく開示すること、さらに投資家との積極的な対話を行い、取組みをアップデートしていくことについて、継続的な実施が求められています。
【資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応】
開示は徐々に進んでいる
「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」について、2024年11月末時点で、プライム市場の89%、スタンダード市場の47%が開示(検討中を含む)するなど、多くの企業において取組みへの着手が進んできています。
【「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」に関する開示状況】
対応のポイントや事例集の公表
また、東証は、2024年2月1日、資本コストや株価を意識した経営について、投資家らが期待している取組みのポイントや、それらのポイントが押さえられていると投資家からの支持を得た取組みの事例集を公表しました。このポイント・事例集は、東証が中長期の企業価値向上を重視する国内外90社以上の機関投資家と意見交換した結果をまとめたものです。
<ポイントと事例、事例集>
・投資者の視点を踏まえた「資本コストや株価を意識した経営」のポイントと事例
・プライム市場の事例集
・スタンダード市場の事例集
開示企業一覧表の公表
さらに、対応を進めている企業の状況を投資家に周知し、企業の取組みを後押しする観点から、要請に基づき開示している企業の一覧表を公表しています(毎月15日更新、開示企業一覧表)。
今後の方針は
2024年8月30日の公表資料では、以下の方針が示されています。今回の要請は形式的な対応を求めるものではなく、実質面の改革を行うという本来の趣旨を改めて追求する新たなフェーズに入っているといえるでしょう。
改革は始まったばかり
企業による取組みへの着手が進んでいるものの、取組みに課題がある企業や、未開示の企業もいる。
東証は、上場企業が、資本コストや株価を意識して企業価値向上に取り組むことが当たり前となる市場を目指す。
上場企業の数ではなく質(投資者の期待に応えた企業価値向上の実現)を重視
東証は上場企業と投資者との建設的な対話を通じて企業価値向上が図られるための環境整備に更に注力。
その結果、上場維持コストが増加し、非公開化という経営判断が増加することも想定されるが、そうした判断も尊重。
機関投資家への働きかけ
上場企業のみならず、機関投資家に対しても、短期的・表面的な視点のみに偏らず、中長期的な企業価値向上を支えるという視点で、上場企業との対話に臨んでもらうよう働きかけ。
定性・定量の両面で進捗を評価
今後の進捗を測る評価軸として、PBR・ROE・時価総額・成長性など定量的な指標に加え、上場企業の取組み・開示内容や国内外の投資者の評価を定性的に把握し、全体の進捗をレビュー。
企業の取組状況に応じたアプローチ
「資本コストや株価を意識した経営」の要請後、多くの上場企業で開示が行われ、特にプライム市場では89%の企業が開示を行っています。しかし、実質面、つまり、企業が投資家の期待に応えた実効的な取組みを行っているか否かという観点ではどうでしょうか。
東証は、2024年6月から7月にかけて、国内外の機関投資家や、証券会社・信託銀行・コンサルティング会社、シンクタンク等の幅広い関係者(計60社超)と意見交換を実施し、その内容や、企業の対応状況も踏まえると、企業の現状は大きく3つのグループに分けられるとしています。
「開示済」としている企業の中でも、自律的に取組みをブラッシュアップしている企業とそうでない企業があることや、投資者の目線とズレた取組みとなっている企業があること等が指摘されており、その取組みの実効性には差が出ているようです。
・企業群2「今後の改善が期待される企業」の課題
上場企業の目標や取組みが投資者の期待に応えたものとなっていないなど投資者との目線にズレが生じていることや、投資者とのコミュニケーションを十分に行えていないことなど
・企業群3「開示に至っていない企業」の課題
IR体制の未整備を理由に投資者との対話に応じないなど、上場会社として備えるべき、投資者に向き合う姿勢・体制が確保されていない企業も存在し、その要因として、支配株主等の存在により市場からのプレッシャーを感じにくいことなど
そのうえで、今後の進め方として、自律的な企業群1については、その取組みを引き続き後押ししつつ、改善が期待される企業群2に焦点を当てた促進・サポート策を講じていくことが重要であるとし、さらに、開示をしていない企業群3に対しては、上場会社として市場と向き合う姿勢・体制の構築を促していくことなどが必要であるとしています。
東証市場改革は始まったばかりであり、これから新たなフェーズに進むことが示されています。引き続き、注目していく必要がありそうです。
●新たなフェーズへ進む東証市場改革。重要なポイントは【東証市場改革は新フェーズへ! 投資家とのギャップを埋める取り組みとは】にて解説します。