正確な個人の家計データは国の政策決定にも応用できるはず
――金融の民主化を進めることで、個人を通じて社会全体が豊かになっていく未来を描かれているのですね。個人をお金持ちにする上で、「人生設計」や「家計簿アプリ」に熱心に取り組まれるのはなぜでしょう。
元々、銀行全体のバランスシートを評価してリスク管理するソフトウェアを作っていたので、それを個人の家計管理に応用しようという発想でした。
個人の生活に役に立つことは、これまで申し上げてきた通りです。加えて、より多くの国民のみなさんが家計簿アプリを使ってくれれば、それぞれの家計をリアルな家計のビッグデータとして統計分析できるので、国への政策提言も可能だと考えています。
例えば、減税をするとか、社会保険料の負担を増やすような政策論争は、現状、どんな人にメリットがあり、どんな人の負担が増えるのかが分かりにくく、不満が出るばかりです。しかし、ビッグデータやデータ分析環境が整えば、政策決定の解像度は一気に上がるでしょう。結果として若い人にメリットは大きいと考えます。
フェアな金融サービスで個人はもっと幸せになれる
――御社が目指すゴールと、それによって生活者が得られる恩恵を教えてください。
日本では大半の人がFPや税理士などのお金に関する専門の相談相手を持っていません。そういうみなさんが、MILIZEが提供するアプリを通じて、安心して人生設計し、人生を充実して楽しむことができる世界を目指したいです。
高齢者がスマホを使うことも当たり前になっていますし、資産運用や、保険選びをスマホで完結できる人も増えています。義理人情で買わなきゃいけない、もっと安くて良い商品があるのに知らずに買うということがなくなって、本当に顧客本位の良い商品を買う、アフターフォローも安心という世の中が当たり前になると、金融サービスに不安や不満を感じることなく、人生の大事なことに集中できます。
MILIZEでやりたいことは、まずは信用される存在になること。たくさんの方に社名やサービスが知られ、信用されるようになったら、「私たち(アプリ)にあなたの家計や人生設計の分析をさせてください。なるべく、その人の事情にフィットしたベストのアドバイスを提供できるように頑張ります」と言います。
それから「これから1年のうちに、この5個のアクションをしてください」とのアドバイスを送って、納得してもらえれば、具体的な行動に移してもらう。最終的には「アクションを起こして、保険の見直しや投資の最適化で、一生涯で1500万円も節約できましたよ」というようなことまで伝えたいです。
とにかく、より多くの個人のユーザーを今よりもお金持ちにしたいと考えています。いつも家計をやりくりして、節約に追われているのに、金融商品に無駄を垂れ流すのはもったいなさすぎます。もちろん、保険や住宅ローン、NISAで買う投資信託など必要な金融商品はあるのですが、安くて良質な商品を、必要な分だけ買うことを当たり前の世の中にしたいです。
浮いたお金を老後に備えるばかりでなく、素敵なレストランで食事をしてもいいし、親や友達に素敵なプレゼントを贈るのもいい。旅に出て素敵な景色に出会って、誰かと感動を分かち合うのもいい。お金を貯めるとか保険を契約するのは、将来の不安に備える合理的で大事な行動だけど、自分が素敵と思うことに時間とお金を使えないと人生は豊かになりません。
――真のフィンテックとそうでないフィンテック。個人が判断できるポイントはありますか?
個人や国が一番豊かになるために金融は“黒子”に徹するべきだと私は考えています。
意味のない部分にコストをかけず、いいサービスを作って提供し、お客さんが損をしないようにしてあげる。そうしたことを推進するのが本当のフィンテックです。
フィンテックの存在価値は、コミュニケーションを洗練させるとか、アプリに出てくるアバターがかわいいとか、紙媒体をデジタル化させるとか、そうした小手先のことではありません。徹底的に顧客の側に立って、困っている人や苦しい人を、テクノロジーの力で楽にしてあげることだと思います。