不調の「トラベルリテール」が重くのしかかる…

業績予想を大幅に下方修正した資生堂ですが、いささか気になるのが、2024年12月期の通期想定為替レートです。

2024年上半期の決算時点での通期想定為替レートは、ドル=145円、ユーロ=145円、中国元=19.5円でした。

ご存じのように資生堂は米国、欧州、中国でも商品を販売しているグローバル企業です。そのため、円ベースの売上高や利益は為替レートの影響を受けます。簡単に言うと、円安は業績を押し上げ、円高は押し下げる要因になります。

では、2024年第3四半期決算時点での通期想定為替レートはいくらだったのかというと、ドル=150円、ユーロ=162円、中国元=21.0円、となっています。

これだけ想定為替レートが大きく違っているのは、この間、為替レートが激しく動いたからです。2024年7月時点のドル円は1ドル=161円台を付ける場面もありましたが、そこから円高が進み、8月5日には1ドル=141円70銭、9月16日には1ドル=139円58銭を付けています。ちなみにユーロ円は、7月時点で1ユーロ=175円43銭という円安局面の後、8月5日には1ユーロ=154円42銭、9月16日には1ユーロ=155円17銭を付けました。急激な円高が進むなか、資生堂としては通期業績予想を計算するうえで、想定為替レートを円安水準に設定できなかったと思われます。

ところが、11月にかけて再び円安が進みました。11月15日のドル円は、1ドル=156円75銭です。またユーロ円も、10月31日には1ユーロ=166円69銭まで円安が進みました。前述したように、2024年第3四半期決算時点での通期想定為替レートが、米ドル、ユーロ、中国元ともに2024年上半期決算時点の通期想定為替レートに比べて円安水準に設定されているのは、為替レートが円安方向に進んでいるからと考えられます。

そして本来、通期想定為替レートが円安に振れれば、売上や利益は増加するはずなのですが、前述したように2024年第3四半期決算で発表された通期業績予想は、2024年上半期決算で発表されたそれに比べて、大幅な減収減益になっているのです。

通期想定為替レートを大幅な円安に設定したにもかかわらず、2024年第3四半期決算で、通期業績予想を減収減益にせざるを得なかったのは、何が原因だったのでしょうか。

第3四半期までのコア営業利益を2023年と2024年で比較すると、それがよく分かります。事業部門別に見てみましょう。左側の数字が2023年第3四半期累計で、左側が2024年第3四半期累計です。

日本・・・・・・▲6億円/185億円
中国・・・・・・20億円/26億円
アジアパシフィック・・・・・・17億円/47億円
米州・・・・・・65億円/39億円
欧州・・・・・・44億円/33億円
トラベルリテール・・・・・・190億円/53億円

コア営業利益に関して言えば、日本とアジアパシフィックは大幅に回復し、中国は微増です。

こうしたなかで著しく落ち込んでいるのがトラベルリテールです。トラベルリテールとは空港や市中免税店などでの化粧品やフレグランスの販売です。訪日外国人旅行客の増加により、日本では堅調な回復となったものの、中国海南島や韓国の中国人旅行者を中心にして、消費が大幅に減少したことを受けて出荷が大幅に後退したと見られています。

トラベルリテール部門だけで137億円もの減益ですから、業績に響かないわけがありません。想定為替レートを円安に設定したにもかかわらず、通期業績見通しが減収減益になっているのは、トラベルリテールの業績不振による影響がしばらく響くと見ているからでしょう。