「永遠の金融緩和」のリスク
もう一つのリスクは、金融の正常化を進めようとしても、短期金利の引き上げ頻度が限られてしまう可能性だ。物価2%が定着すれば、将来的には、長期金利は3%近くになるのが自然であるし、これに見合う短期金利は2%程度まで上がっておかしくない。
しかし、2024年夏の時点では、海外物価の上昇率はすでにピークを越えたとみられ、欧州ECBに続き米国FRBも近々利下げに転じると見込まれている。米国景気はソフトランディングがメインシナリオとなっているが、下方向のリスクもある。そうなれば、日本の景気への警戒感も高まるかもしれない。内外金利差の縮小で、為替相場が大幅な円高に向かうようなことがあれば、日銀が利上げを続けていくのは容易でないだろう。
こうした事態に陥るのは、異次元緩和が中途から採用したオーバーシュート型政策の結果でもある。オーバーシュート型の政策を採用したために、世界の経済・金融政策のサイクルと日銀の政策にズレが生じてしまった。この結果、短期金利の引き上げはせいぜい1%程度、場合によっては0.5%程度までしか行えないかもしれない。そうなれば、いわゆる「永遠の金融緩和」となりかねない。しかし、金融緩和は永遠に続けられるものではない。究極的には、実体経済の後退と物価の大幅上昇を招き、万一の場合には国への信認を低下させる危うい道である。
2024年7月末の利上げ後、金融市場は円相場の急騰と株価の急落に見舞われた。日銀は、事態の収拾を図るため、追加利上げを慎重に考える姿勢を表明したが、これは「永遠の金融緩和」のリスクと背中合わせの関係にあるものだ。金融の正常化には、やはり途方もない困難が待ち受けている。
異次元緩和の罪と罰
著者名 山本 謙三
発行 講談社
価格 1,210円(税込)