日本銀行の11年に及んだ異次元緩和。
「2%物価目標」のために、巨額の国債と日本株(ETF)を買い入れてきました。大きな影響を市場に及ぼした異次元緩和は成功だったのか、それとも失敗だったのでしょうか?
金融正常化へ舵を切るなか、そんな疑問に答える1冊の本が版を重ねています。元日本銀行理事の山本謙三氏が執筆した『異次元緩和の罪と罰』です。山本氏は、金融正常化へ向かう出口には「途方もない困難」が待ち構えていると言います。(全4回の4回目)
●第3回:17年ぶりに「金利のある世界」に、植田日銀の異次元緩和の解除が「絶妙のタイミング」だったと言えるワケ
※本稿は、山本謙三著『異次元緩和の罪と罰』(講談社)の一部を抜粋・再編集したものです。本書は2024年9月発売、掲載情報は執筆時点に基づいています。
「永遠の金融緩和」の罠
では、日銀は今後どのような金融政策の方針で臨むことになるだろうか。日銀は、7月に0.25%への利上げを決定した際の公表文で、「政策金利の変更後も、実質金利は大幅なマイナスが続き、緩和的な金融環境は維持される」としつつ、「今回の『展望レポート』で示した経済・物価の見通しが実現していくとすれば、それに応じて、引き続き政策金利を引き上げ、金融緩和の度合いを調整していくことになると考えている」とした。
急激な金利変更がもたらす市場の過度の反動は避けつつ、経済・物価情勢が改善を続ければ、金融正常化への歩みを着実に進めたいとの意思表明だろう。
もっとも、日銀の見通しどおりに経済が進むとは限らない。異次元緩和が長く続けられ、かつ、オーバーシュート型運営として異次元緩和解除のタイミングを遅らせてきたために、リスクが表面化した際の影響は甚大になる可能性がある。
一つのリスクは、現時点では可能性は低いが、物価の上昇圧力が高まり、インフレを十分に抑えられなくなるリスクである。今回の世界的な物価高騰の局面では、米国は金融政策の転換が遅れた。その結果、物価と賃金の悪循環が生まれ、その後の急激な利上げを余儀なくされた。日本も、長きにわたる異次元緩和のもとで多額の資金供給と超低金利が続いてきただけに、このリスクも完全には否定できない。