日本銀行の11年に及んだ異次元緩和。
「2%物価目標」のために、巨額の国債と日本株(ETF)を買い入れてきました。大きな影響を市場に及ぼした異次元緩和は成功だったのか、それとも失敗だったのでしょうか?
金融正常化へ舵を切るなか、そんな疑問に答える1冊の本が版を重ねています。元日本銀行理事の山本謙三氏が執筆した『異次元緩和の罪と罰』です。山本氏は、金融正常化へ向かう出口には「途方もない困難」が待ち構えていると言います。(全4回の2回目)
●第1回:植田日銀の前途多難な船出、元日銀理事が懸念するのは「物価目標達成」の判断
※本稿は、山本謙三著『異次元緩和の罪と罰』(講談社)の一部を抜粋・再編集したものです。本書は2024年9月発売、掲載情報は執筆時点に基づいています。
非正規シフトで名目賃金も上がりにくい社会経済構造
賃金の動向は、日本経済の縮図である。経済の実相を知るためにも詳しく見ておこう。
厚生労働省が毎月発表する毎月勤労統計調査によれば、日本の実質賃金指数は2022年4月から2024年5月まで、26ヵ月にわたり前年比マイナスが続いてきた(図表6-1)。実質賃金は、名目賃金指数を消費者物価指数(持家の帰属家賃を除く総合)で割って計算される。同消費者物価指数の高止まりが、実質賃金の押し下げに寄与していた。24年6月にようやく前年比プラスに転じたが、前述のとおり、所定内給与や時間外手当などの「きまって支給する給与」の実質賃金は依然前年比マイナスに沈んでおり、予断は許さない。
同時に、実質賃金の低迷には名目賃金(現金給与総額)が思いのほか上昇しなかったことも影響した。2023年は春闘で大幅賃上げが実現した年であり、経団連の発表によれば、大手企業は前年比3.99%の賃上げを実現していた。にもかかわらず、毎月勤労統計調査の名目賃金は2023年中、前年比プラス1.2%しか伸びていない。