1990年代以降の日本経済の特色
同調査には、雇用形態による内訳として「一般労働者」と「パートタイム労働者」の2区分がある。2023年中のそれぞれの名目賃金前年比は、一般労働者プラス1.8%、パートタイム労働者プラス2.4%だった。にもかかわらず、全体の平均はプラス1.2%にとどまった。内訳項目の「一般労働者」、「パートタイム労働者」のそれぞれが一定の伸び率を示しながら、全体平均は両者の伸び率を下回るという一見奇妙なことが起きた。
これは、企業が正規雇用を抑え、相対的に賃金の低いパート中心に雇用を増やした結果である。模式的に言えば、1日8時間働く正規雇用者1人に代えて、1日4時間働く非正規を2人雇用する方が1人当たりの賃金は低くなる。この場合、パートタイム労働者の賃金が大幅に上昇しても、加重平均した全体平均の伸び率は低くなる。
パートタイム労働者の構成比が高まり続けたこと(図表6-2)、すなわち非正規労働力に依存しなければ、採算を成り立たせることのできない企業が多く存在していること、また、職場や家庭での働き方の制約から、正規よりも非正規を指向せざるをえない労働力が存在することが、1990年代以降の日本経済の特色である。その事実を如実に示す結果だった。
加重平均した名目賃金がなかなか上がらない事実からうかがい知れるのは、原材料コストと賃金コストの上昇に苦しむ中小・零細企業の姿だ。
●第3回は【17年ぶりに「金利のある世界」に、植田日銀の異次元緩和の解除が「絶妙のタイミング」だったと言えるワケ】です。(11月27日に配信予定)
異次元緩和の罪と罰
著者名 山本 謙三
発行 講談社
価格 1,210円(税込)